双星の魔導師と巫女-10
「ベルリア、変わってよ。疲れちゃった」
ソファーに座ってお茶を飲んだリンは、人心地ついて大きく欠伸をした。
『いいよ』
ベルリアが了承するとリンの体から柔らかい光が溢れ、気がついた時にはベルリアに変わっていた。
「目の前で変わるのを見るのは初めてですわ」
目を丸くするミヤにベルリアは首をコキッと鳴らして少し笑う。
「そうだったかな……まあ、見ていて気持ちいいものじゃないしね、人前じゃあまり変わらないんだけど……」
「そうですか……」
ミヤはお茶のカップを両手で包むように持って、その中身を見つめたまま声を出した。
「あの……どうやって見つけましたの?」
「ああ……君の魔力の波動を追いかけたんだ。途中で切れかけたけど微かに残ってたからどうにかね……」
魔力は個人で微妙に波動が違う。
その違いは本当に微かなもので、それをかぎ分けるにはかなりの集中力と繊細な魔力操作が必要だ。
「……良く分かりましたわね……」
「……君の波動は憶えてるから……」
何処に居てもわかるよ、と微笑むベルリアの笑顔はどこか寂しそう。
「拐われていた時に、わたくしったら不思議と冷静だったんです」
ベルリアはミヤに目を向けて黙って続きを待つ。
「どうしてかしら?とずっと考えてましたの」
「答えは出た?」
ミヤは顔をあげてベルリアに艶やかに微笑んだ。
「貴方ですわ」
ミヤの微笑みに暫し見とれていたベルリアはハッと我に返る。
「貴方が必ず来てくれるって確信してましたの……だから、怖くなかったですわ」
ベルリアの心臓がドクンと跳ねた。
このままじゃヤバい……暗がりの個室に2人っきり……体中の血液が1箇所に集まる。
「そ……それは正解だったね……とにかく、もう寝なよ?私は隣の部屋に行くから」
慌ててその場を去ろうと立ち上がったベルリアの背中に、突然ミヤが抱きついた。
「ミ……ミヤ?!」
振りほどこうと身動ぎするベルリアを、ミヤは強く抱いて止める。
「どうしたんだい?やっぱりまだ怖い?リンに変わろうか?」
出来るだけ平静を装おって体に回されたミヤの腕にそっと手を重ねた。
ミヤは背中に抱きついたまま首を横に振る。