第一章―1-2
下駄箱に上履きを入れると、恵梨は隣で同じようにしている瑞稀に尋ねた。
「今日、教室で寝てたけど運動部から助人頼まれてたんじゃなかった?」
上履きを入れ、スニーカーを無造作に地面へ投げ出した瑞稀はその質問に応える。
「ん〜。断った。もうすぐ試合だしさ」
「空手の試合、来週だよね?」
「うん。・・それに、寝ちゃってたけど、今は時間が惜しいから・・」
そう言った瑞稀の目に悲しみが宿っていた。
その様子に気づいた恵梨は瑞稀の頭を撫でながら、言葉を発した。
「郁真くん、まだ行方不明なんだね・・」
その言葉に静かに頷く瑞稀。
実は、瑞稀の彼氏である南雲郁真が二カ月くらい前から連絡が一切取れず、行方不明となっていた。
その事を知っているのは親友の恵梨だけ。
恵梨は雰囲気を変える為に口を開く。
「・・でも、瑞稀から彼氏いるって聞いた時は驚いたな〜。興味無いって感じだもん」
「・・」
否、雰囲気をぶち壊す為とも言う。
その言葉は漫画の一部かと思われる位の矢印が、グサッと瑞稀を貫く。
「・・〜、恵梨?」
「大丈夫だよ、郁真君は絶対見つかる。」
恨めしそうに見た瑞稀に、自信を持ち笑顔を向ける恵梨。
瑞稀なら郁真を見つけられると信じているからそんなに心配をしていない。
その自信に、瑞稀はいつも励まされた。
「うん、そうだよね。」
「それに・・・」
恵梨が元気良く頷いた瑞稀の胸ポケットから銀色のスライドケータイを取りだす。
そしてスライドし、待ち受けを瑞稀に見せる
「こんなに仲良いんだから、郁真君だって瑞稀が気になって帰ってくるよ」
その待ち受けは、瑞稀と郁真のツーショットのプリクラ。一回だけ撮ったモノ。
互いに笑顔をカメラに向け、見ている者を微笑ませるような初々しいプリクラ。
瑞稀はケータイを受け取ると、それを照れたような顔で見つめた。
そんな瑞稀を見た恵梨は安心したのか先に昇降口を出た。
瑞稀は小さい声で待ち受けに向かって、
「ホント、どこに行っちゃったんだか・・」
と、呟いて恵梨を追いかけた。