〜第4章〜 土曜日 魔鈴-6
ベッドに腰掛け、スプリングの度合いを確かめてると、突然、琴を掻き鳴らしたような中華風の音楽が流れてくる。
どこかで聞き覚えのあるメロディだと思ったら、「妖怪ハンター魔鈴」で、魔鈴ちゃんの登場シーンに使われてるものだ。
スピーカーがどこかはわからないが、銅鑼を叩いたジャーンという音は、部屋の奥から聞こえてきた。
見れば部屋の奥にも金の衝立があり、そこから小柄な影が姿を現した。
いよいよお相手の登場か。演出を楽しんでいた僕だが、薄暗がりから現れ出た人物を見て、驚きの声を上げた。
照明の光が届くところに現れたのは、セクシーな赤いチャイナドレスの東洋娘。黒髪をきちんと結い上げ、手には不似合いな青竜刀を下げている。その姿には見覚えがあった。
「魔鈴‥ちゃん!?」
そう、彼女は妖怪ハンター魔鈴の主人公。よもやと思ったが、本当に現れるとは。
どうやらこの演出を考えた者は、僕の趣味を熟知しているようだ。魔鈴ちゃんに扮した女の子は、アニメのとおり超ミニのチャイナドレス姿で、白い手足が艶めかしい。彼女はベッドの前までやってくると、太ももがよく見えるよう足を開き、青竜刀を水平に構える。
「見つけたわよ、妖怪とりつ鬼!その人の身体から離れなさ〜い」
‥ちょっと待て、この声は?
「我こそは桃華園が導師、桃 魔鈴。天命に従い邪を滅します!」
アニメの決めセリフと共に、魔鈴ちゃんは手にした青竜刀を振りおろしてくる。
「悪霊退散!」
手加減された一撃ではあったが、さすがに本当に斬りかかってくるとは思わなかった。 慌てて避けると、摸造刀であろう青竜刀はベッドのスプリングで跳ねかえる。すかさず僕は魔鈴を横抱きにしてベッドの上に組み敷く。青竜刀はからから音を立てて転がって行った。
「こ、こら、はなせ〜」
あくまで魔鈴ちゃんを演じるのか、彼女は甘酸っぱい口調でもがいて見せる。しかしその顔を覗き込んだ僕は、今度こそ本当に驚いた。
「‥レ、レアン!?」
僕が初めて抱いた女。オタクを嫌悪し、香港に行ってるはずの彼女が、今アニメのコスプレをして、僕に組み敷かれている。
抵抗するような素振りを見せてはいるが、逃れようと言うよりは、身体をなすりつけてくるように身悶えする。3日前抱いた時は虚ろだった表情が、今は物欲しげに見つめてくる。
これも凶眼の魔力なのだろうか。あの気丈なレアンがこうも淫らに絡んでくるなど、いや、そもそもアニメキャラの格好をするなどあり得ない話だ。
「くぅ‥、まずはとりつ鬼をこの人から追い出さなくちゃ」