〜第4章〜 土曜日 魔鈴-2
問題の住所は歓楽街のさらに奥、最高級のお店が立ち並ぶ区画にあるようだ。ようやく 「ソドム&ゴモラ」の看板を見つけた時、僕は安堵ではなく、驚きの呻きが漏らしていた。
格式と言うか、そのクラブは明らかに他の店と一線を画していた。高級感の漂うシックな店構え。けばけばしいネオンや客引きの女の子はおらず、入口にはボディガードらしき、いかつい背広姿が鎮座している。
新たな一歩を踏むのが躊躇われた。ここは平時であれば、間違っても僕が来るようなところではない。のこのこ入口に近づこうものなら、あのボディガードに追い返されるのが容易に想像できる。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。他の用事ならともかく、凶眼の力を手に入れるかどうかの瀬戸際である。占い師が指定した店はここで間違いないし、今更冗談ごとを言うはずもない。
などと考えながらも意を決しかねていると、店の入り口から二人の女性が出てきた。
ぎょっとしたように通行人の視線が集中する。この歓楽街にあって、なお人目を引く美しさである。おそらくこの店のホステスなのだろう。モデル並みのプロポーションのブロンド美女二人は、肩口がむき出しのイブニングドレスに身を包み、下賤な輩の視線を冷然と跳ね返す。
ドレスの色と髪型こそ違うが、二人そっくりな顔をしてるのは双子、もしくは姉妹なのだろう。彼女達は一礼するボディガードに目もくれず、こちらへ歩いてくる。
‥どうやら表現が正確ではなかったようだ。
彼女達はこちらに、ではなく、僕に向かって歩いてきた。
「ラウム・クルーガー君ね」
「ソドム&ゴモラへようこそ」
美女達は僕の前に来ると、代わる代わるに口を開く。予想外のことに面喰って、僕は言葉を返せない。
「あら可愛い、‥ウフフ、食べちゃいたい❤」
ウェーブがかった髪の、赤いドレスの美女が悪戯っぽくウィンクする。
「心配しないで、私達は迎えに来ただけよ」
こちらは長いストレートヘアの、青いドレスの美女がほほ笑む。
「あの‥ええと、僕で間違いない？」
ちょっとだけ驚いた表情で顔を見合わせると、二人は目を細めて囁きかけてくる。
「あらあら、凶眼で女の子を三人も食べちゃったのに、緊張してるの？」
「裸の生徒会長にはちょっと驚いたわよ、いい趣味してるわね」
これで僕は納得した。僕に凶眼を渡したのが悪魔の意思なら、この二人は悪魔の手先に違いない。道理で美人なわけだ。両手を上げて降参の意を示す。
「さぁ、参りましょう」
悪魔の美女達は完璧なハーモニーを奏でると、これ見よがしに僕の両腕に絡みつき、豊満な胸を押しつけてくる。