カオルC-9
(へえー)
そこには、数はそれほどでもないが、幾つものウィッグが飾られていた。
ウェーブやストレート、色も前出のピンクや金髪は極端だが、ブラウンからブルネットと豊富だ。
(あ、これ…)
その中で、真由美が目を止めた物があった。
前髪を揃えて、サイドが胸元まである髪型。やや、茶色がかった髪色が自然に見える。
(これ、薫に被せたら…)
そう思っただけで、身体が熱くなった。
その時、ようやく買い物を終えたひとみがやって来た。
「ごめん、ごめん!結局、チョーカーを…」
そこで、ひとみは黙りこくってしまった。
熱い眼差しで一点を見つめる真由美を見たからだ。
(あのウィッグか…)
ひとみは、目を細めた。
学校で落ち込んでたのを見て、買い物を思いついたのだが、どうやら効果はあったようだと。
「ごめん、お待たせ」
ひとみは、真由美の肩に触れた。
「あ、ああ。買い物終わった?」
「うん。ばっちり」
真由美は腕時計を見た。すでに7時を過ぎていた。
「ちょうどいい時間かな」
「そうね」
2人は、満足気にショップを後にした。
ショッピング・モール出口に差し掛かった時、ひとみが急に慌てだした。
「しまった!」
「どうしたの?」
「頼まれ物があったのよ。ちょっと、此処で待っててくれる?」
ひとみの頼みに、真由美は頷いた。
「じゃあ、そこで飲み物買っとくから」
「ごめん!」
ひとみは、慌てて中へと戻って行った。
真由美も、飲み物を求めてファストフード店に入り、シェイクを2人分購入した。
それから間もなく、ひとみが戻ってきた。
「何それ?」
真由美が訊いた。ひとみの手に、手提げ袋が握られていたからだ。
「うん。お姉ちゃんに頼まれた帽子だよ」
「ふうん」
「それより、シェイクちょうだい」
ショッピング・モールを後にした2人は、暗くなった帰路を歩いた。
そして、お互いの分かれ道が近づいた時、ひとみが真由美に言った。
「今日は、ありがとう」
「こっちこそ。いい気分転換になったよ」
「これさ、もらってくれる?」
ひとみは、手提げ袋を差し出した。真由美には、意味が解らない。