カオルC-7
「だから?」
「ちょっと買物にさ、付き合ってよ」
真由美の中で、笑いがこみ上げてきた。最初からそう言えばいいものを、何とも回りくどい表現方法だ。
「買い物ねえ…」
ひとみが、これだけ頼んできたのは初めての事だ。この日を逃せば、しばらくは機会もないだろう。
(それに…)
真由美も、真っ直ぐ家に帰るのは気が引ける。
「分かった。付き合ったげる」
「本当!よかった」
利害が一致した2人は、仲良く学校を後にした。
6時少し前、小学校の駐車場に薫の姿があった。
「じゃあ薫、終わり頃には迎えに来るから」
「う、うん」
須美江の運転するクルマが、学校から出て行く。
薫は、不安な面持ちで体育館の方へ歩きだした。
「うわぁ…」
校舎に目をやった。薄暗い白暮とはいえ、昼間と違う表情に驚かされる。
明かりもなく、ひと気のない様子は廃墟のように見えた。
体育館の入口を通り、中へと通じる重い扉を開けた。
「眩しい」
此処でも驚かされる。昼間、使ってる時は薄暗い印象なのに、今は、天井の水銀灯によって、昼間以上の明るさをもたらしていた。
(こんな中でやるんだ…)
上級生だけの練習で、果たして、自分は付いて行けるのかと思うと、不安で堪らない。
中に入るのを躊躇っていると、背後から声がかかった。
「あれ?薫」
「えっ?」
振り返ると、嶋村直樹が立っていた。
「あ、あ…嶋村くん」
薫は、緊張からうまく喋れなかった。が、直樹の方は、それを気にした様子もない。
「ひょっとして、練習に来たのか?」
「う、うん。お母さんが…」
薫は、母親から教えられた理由を、細かく話した。
それを聞いた直樹は、難しい顔になった。
「こっちは上級生ばかりだから、半端なく厳しいぞ」
「やっぱり…」
直樹の言葉が、益々、薫の不安を煽りたてる。
「ボク、場違いなのかな?」
つい、思いが出てしまった。
しかし、直樹は首を横に振る。
「オレも監督が言った通り、おまえは才能あると思うよ」
「えっ?」
「だから、頑張ってみろよ」
「嶋村くん…」
てっきり否定されると思っていたのに、仲間として受け入れてくれたのだ。
「分かった。頑張ってみるよ」
「じゃあ、準備にかかろう」
直樹は、薫の背中を押して中に入って行った。