カオルC-2
「こんなに…」
「これで、ウィッグを着ければ完璧な女の子よ」
頬を寄せて弟を見つめる真由美。その口から吐息が漏れた。
「んっ」
姉の口唇が、押しつけるように重なる。受けとめた薫は、この行為を求める意味が解らない。
重なりが解かれた。
「薫…」
薫の目に映った姉の目は潤んでいた。最初に思い浮かんだのは綺麗だということ。
しかし、何故、そうなのかも解らない。
「お姉ちゃん」
思いが口をついた。
「なんで、ボクにキスするの?」
やや、硬い面持ちで問いかける弟に、真由美は笑みを返した。
「わたしにも、解んないや」
そう答えると、再び、弟の身体を抱しめた。
翌朝。
「お姉ちゃん、起きてよ」
薫は、真由美の部屋にいた。
なかなか、目を覚まそうとしない姉の身体を揺すっている。
「うん…ん」
「早く起きてよ」
いつもは、先に起きてるはずが、今朝に限って起きてこないのが心配になったのだ。
「あ…うん?」
「やっと起きた」
「…今、何時?」
「もうすぐ、7時半だよ」
状況を聞いた真由美は、目を見開いた。ベッドを跳ね起きた。
「な、何でもっと早く起こしてくれなかったのよ!」
「だって…」
「完全に遅刻じゃない!」
「ごめんなさい」
怒りをぶつけられて、薫は俯いてしょげ返る。見当違いと思うのだが、言葉が出ない。
「着替えるから出てって」
「う…うん」
「早く!」
半ば、追い出されるように部屋を出た。
「まったく…」
誰もいなくなった部屋で、真由美は憂鬱な顔になった。
(薫のおかげで遅刻だ…)
昨夜のことが、頭にこびりついて剥がれない。
弟の“望み”を叶えてやった後、眠ろうとベッドに入った。
目をつぶった。余韻ただよう仄暗い部屋。網膜が、鼻腔が、口唇が、指先が、美麗な弟の姿を再び呼び覚ます。
「…う…うん」
何度も寝返りを打つ真由美。だが、昂りは収まるどころか、どんどん、どんどん増していった。