C-3
「あ〜あ、だめだなぁ」
見かねた哲也は、雛子の傍に歩み寄る。
「先生、僕の真似してみて」
「う、うん…」
突き立てたスコップに足をかけ、柄を握った両手の甲に胸を強く当てた。
「押す時は、足と一緒に背中で押すんだよ」
哲也は、身体全体を使ってスコップを押し込んだ。
雛子も動きを真似てみる。さっきより、深くスコップが刺さった。
「それから、柄の端を持って押し下げて」
「こう…?」
ぼこっと土が盛り上る。
「うまい、うまい。後は右手をもっと前を握って…そうそう」
教えられた動きにより、先程より楽に掘れた。
「結構、難しいのね」
「慣れてくれば、簡単だよ」
それからは、少し進行が速くなった。
まだまだ、哲也に比べれば半分ほどの調子でしか掘れないが、徐々に積み上げた土が高くなっていく。
「ん!…しょ…ほっ!」
最初は、ぎこちなかったスコップ使いも、暮れなずむ頃には ずいぶん上手くなっていた。
「…いいね」
「お…終わった…」
紅く染まった庭で雛子と哲也は、1日の成果を見入ってた。 庭の半分は黒い土が露出し、端っこには、まさ土が積み上げられている。
「はあ…あ…」
その場にしゃがみ込む雛子。精も根も尽き果てたというところか。
その姿を目の当たりにした哲也が、乱れる息で言った。
「先生…まだ初日が…終わっただけだよ」
それでも、雛子は動けない。
「…ごめん…でも、ちょっと休ませて」
「…だめだよ。休むなら、あっちに行こう」
しゃがみ込んで休んでしまうと、動けなくなることを哲也は知っていた。
雛子をむりやり抱き起こして、家の中へと連れて行った。
「よいしょっと!」
玄関を潜って土間を渡り、茶の間の上がり口で降ろした。
「ここなら休んでていいよ」
「…ありがとう」
「でも、寝ちゃだめだよ。座ったままでね」
哲也は、そう言うと玄関の方へと消えてしまった。
残された雛子。軋む身体を、壁に預ける。