C-2
「昨日、物置を探したらこれがあったの」
雛子は、丸スコップと備中鍬を持ってきた。
「そっちの鍬は、今日は要らないよ」
「えっ?スコップを使うの」
てっきり、鍬で耕すとばかり思っていた。
「先ず、畑にする場所の土をスコップで掘るんだ」
「えっ?掘るって」
「そう。庭にはまさ土といって、畑にむかない土が敷いてあるから、それを除けるんだ」
哲也はそう言うと、家から持ってきたリアカーから丸スコップを取り出して、
「こうやって…」
やおら、スコップの先を地面に突き立て、平らな部分に足で体重をかけた。
スコップが地面深くに刺さったところで、今度は柄の部分をゆっくり下に押すと、地面が割れて土の塊が盛り上った。
「これを、端っこに積み上げる…と」
スコップを入れた場所に、ぽっかりと穴が空いた。雛子が中を覗いてみると、白土と黒土が層を成している。
「ほら、この白いのがまさ土だよ。その下が黒土。
この黒土が顔を出すくらいまで掘るんだ」
見れば、まさ土は15センチはある。
「先生、どのくらいの畑にするの?」
「えっ!…えっと…」
雛子は焦った。土を耕せば畑が出来ると思ってたのが、まさか、最初からこんな重労働が待っていようとは。
「えっと…こんなもんかな」
すっかり怖気付いてしまい、予定より小さな畑を申告するが、
「たったそれだけじゃ、大して植えられないよ」
すぐに哲也から、厳しい意見が返ってきた。
「野菜を作るんなら、これぐらいは…」
スコップの先で地面に付けた線は、庭の南側ほとんどを占めた。
「…これ位なら、冬以外の野菜は作れるし、日当たりもいいから大丈夫だよ」
雛子が、最初予定していたものよりかなりの広さ。
「じゃあ、手分けしてやろう」
「わ、分かった」
2人は、両端に分かれて庭を掘り出した。
「ぐ…う…うう」
当然、畑作りはおろか、スコップも満足に使ったことがない雛子は悪戦苦闘。要領を得た哲也のように上手く掘れない。
「せんせーーい!そんなへっぴり腰じゃ終わんないよ」
「わ、分かってんだけど…ぐうう…」
調子よく地面を掘り進む哲也に対し、雛子はひと掘り毎に、腰を伸ばす始末だ。