C-13
「これなら、2週間もすれば、植えられますな」
「えっ?すぐじゃないんですか」
「土が馴染むのに、そのくらいかかります」
高坂は、そう言うと、後ろを振り向いた。
「そうじゃな?哲也」
「…う、うん」
見れば、哲也が壁から顔を出していた。
「隠れちょらんで、こっちへこい」
「そうよ、哲也くん。いらっしゃい」
2人に促され、哲也はおずおずと出てきた。
「百姓仕事では、わたしの先生なんです」
雛子の言葉に、高坂は目を細める。
「ええ仕事したな。わしもびっくりじや」
「…そ、そんなこと」
「いやいや、自信持っていいぞ」
哲也は、どう答えていいか分からない。高坂に褒められたことなど、ついぞ無かったからだ。
すっかり大人しくなった哲也に、雛子が救いの手を差しのべる。
「哲也くん。後で、お母さん呼んで来てくれないかな?
畑が完成したから、見に来て下さいって」
「わ、わかった!」
哲也は、助け船とばかりに、リアカーを引いてその場から去ってしまった。
「ありぁ」
「んふふ…」
2人は、その光景を微笑まし気に眺めた。
日が傾き、朱色の光が辺りを包む。昼間は静かだった山が、ざわめきだした。
「ここまでは、順調ですな」
「はい…」
高坂の言葉に、雛子は静かに頷いた。
「でも、わたしの思っている問題を無くすには、どれだけ掛かるか解りません」
高坂は雛子に目を向けた。
その横顔は、どこか哀しそうに見えた。
「気持ちに余裕を持ってな。焦ったら、なあもなりませんぞ」
「そうですね」
雛子は空を仰いだ。
鮮やかな朱色と紫が交じり合い、金色の星が輝いていた。
「a village」C完