C-12
「この枯葉の下の土を使うんだ」
「草も生えてないのね」
一面、茶色がかった枯葉ばかりで、下草という森を構成するべき物が見当たらない。
「枝が重なって、日が届かないからね。とっても良い土が採れるんだ」
「そうなんだ」
日射しが届かないことで、適度な湿り気が保たれ、枯葉の分解を促進するのだ。
「先生、ここにしょうけ籠を置いて」
雛子は、リアカーからしょうけ籠を取り、木の下に置いた。
「それで、上に篩を乗せて…」
「スコップで土を乗せるのね!」
「そうだよ。もうひとつのしょうけ籠に土を集めて乗せるんだ」
哲也は、しょうけ籠と庭箒を雛子に渡すと、自分はスコップを手にして森へと入った。
「この辺かな」
ブナやクヌギ、ミズナラが、太い幹をなして枝葉を伸ばしている。
その下は、周りより枯葉が盛り上がっていた。
「先生、この辺の枯葉を除けるから」
枯葉を取り除くと、下から黒っぽい土状の物が顔をだした。
「これを取るの?」
「そう。腐葉土っていうんだ」
雛子は触ってみた。土の硬い感触でなく、ふかふかしている。
「これを黒土に混ぜると、水捌けの良い畑になるよ」
腐葉土を山から運び出す作業は、丸2日間かかった。
それから、灰を混ぜ込み、再び耕して畑が出来上がったのは、作業開始から5日後のことだった。
「うわあ…」
雛子が感嘆の声を挙げた。
砂利と草だけの庭に、8つの黒い畝が現れた。
出来たての畑を2人で見ていると、玄関の方から声が聞こえた。
「河野さん!」
「こ、校長先生!」
校長の高坂が訪ねて来たのだ。
「ど、どうして?」
予想もしない登場に、雛子は戸惑いを隠せない。哲也に至っては、家の壁に隠れてしまった。
高坂は、にこやかに答える。
「なあに。学校の用を終えて帰ろうとしたら、ああた(貴女)の声が聞こえたものですから」
そして、畑に目をやった。
「ああたの目標が、徐々にかたちに成ってきましたなあ」
「こ、これは、わたしだけの力じゃ出来ません。哲也くんが居てくれたからこそ、出来た物なんです」
「ほおですか…」
高坂は畑の前にしゃがみ込み、土を手に取った。