C-11
翌日。
「ふ…んん…」
雛子は、いつもより早くに目覚めた。
「んーー!」
気持ちの良い朝だった。
(ふふ。楽しかったなあ…)
昨夜のことを思い出した。
大したもてなしも出来なかったが、哲也とは当然、母親とも解り合えた。
そして、また家に来ることを承諾してくれた。
やっと1歩目を踏み出した。そんな思いだった。
「さーてと!」
雛子は、勢いよく起き上がると布団をたたんだ。
「今日も、頑張らなきゃ!」
今までで、1番良い顔をしていた。
「えっと、お弁当にお茶と…」
起きてから2時間が経とうとする頃、雛子は、その日の準備に余念がなかった。
「…これで、忘れ物はないわね」
今日は、哲也の家で待ち合わせだから、少し早く出かけねばならない。
「よし!」
雛子は、自宅を出て坂道を下りて行った。
丘の下には、緩やかな曲線の道が村を囲むように走っている。
道なりに右へ進み、途中の分岐から山に入って行くと哲也の家だ。
「おはようございます!」
「おはよう!先生」
雛子が訪ねると、哲也はリアカーに農具を積み込んむ最中だった。
「わたしも何か手伝うわ」
「もう、これで終わりだよ」
リアカーには、しょうけ籠や篩、平スコップが積んである。
「これは、どうやって使うの?」
どれも、見覚えのある農具だが、これらが、どう組み合わさるのか解らない。
そんな雛子に対して哲也は、「向こうで教える」とだけ言った。
「じゃあ、行こう」
「あ、はい!」
哲也が引くリアカーの後ろを、雛子は押した。
家を出てわずかに進んだところ。
「はい!止めて」
リアカーを止めた。
「もう止めるの?」
「周りを見てごらんよ」
鬱蒼としげる森。木々の下には、たくさんの枯葉が敷き詰められている。