やっぱすっきゃねん!VQ-3
対戦相手である大谷西中は青葉中とは違い、県大会出場の常連校だった。
しかも、練習試合の機会もななったので、お互いの細かいデータを持ち合わせていない。
とすれば、ピッチャーの出来いかんが、勝敗にかなり影響してくる。
(1番とクリーンナップ、それに7番をマーク…機動力は大したことない。後は…)
達也は、わずかなデータから“負けない試合”にするための青写真を、頭の中に組み立てつつあった。
「バッター・ラップ!」
主審の声と共に1番バッターが左打席に入った。
軸足である左足の場所をスパイクの爪で蹴り掻き、出来た窪みに固定する。
達也は、バッターが取る一連の動きを注視した。足のスタンス、バットの握りや位置など、頭にあるデータと経験を照合して配球を導きだす。
「プレイ・ボール!」
けたたましいサイレンと共に、準決勝第1試合が始まった。合わせて、1塁側大谷西中のスタンドから歓声が挙がった。
達也の右手が素早く動く。
(初球はこれで)
直也がサインに頷いた。
初球は外角低めの真っ直ぐ。少し高めに浮いたが、バッターは見逃した。
(球数を放らせるのか?)
バッターが再び構えた。変化はない。達也は、狙いを変化球と読んだ。
(内側にカーブ)
低いミットの構え。
直也はリリースの瞬間、ボールに逆の回転を与えると、親指と人差し指から抜くように投じた。
バッターはタメを作って待っている。変化球狙いだ。
(このまま内角低めに変化すれば、ファーストゴロだ)
達也はそう思った。が、ボールが少し真ん中に入ってしまった。
キンッ!──
金属音と共に、鋭い打球が直也の前でバウンドした。
(あっ!)
慌ててグラブを伸ばすが、ボールは股関の下を抜けた。
誰もが、ノーアウトのランナーが出たと思った時、
「ヨシ、来たあ!」
セカンド森尾が、2塁近くを守っていたのだ。
森尾は素早く打球に回り込み、余裕ある守備でファースト一ノ瀬へと送球した。
「ナイス!森尾」
今のプレイに、選手やベンチばかりか、観客からも拍手が挙がった。
抜けていれば大谷西中に勢いを与えるが、それを阻止できたことで青葉中から、序盤の嫌な緊張を取り除くこととなった。
直也は帽子のつばを軽く摘まんで、森尾に小さく頭を下げた──助けられたことへの感謝。