やっぱすっきゃねん!VQ-2
朝10時。
市営球場で、大谷西中対青葉中の準決勝が始まった。
青葉中の先発ピッチャーは直也。ブルペンでの投球を終えると、小走りでマウンドへ向かった。
その途中で何故か立ち止まる。振り返ると、何かを探した。
それは、3塁スタンドの真ん中あたりにいた。
(相田…)
見つめる直也の中に、熱い物がこみ上げた。
すぐに視線を切って、再びマウンドへと駆けていった。
きれいに整えられたマウンド。白いプレートの上に置かれた真新しいボールを、グラブで拾う。
上げた視線の先には、いつものように達也が立っていた。
(まったく…乱れるってことがないのか、あいつは)
マスク越しの顔も、落ち着いている。
直也は、スパイクの爪で、差し足付近の土を入念に削り取って窪みを作る。
この窪みの出来が、ピッチングに大きく影響してしまう。細かくなって当然だ。
プレートに右足を置いた。達也も動きに合わせて、しゃがみ込むとミットを構えた。
ワインド・アップから、左足を胸まで上げて、合わせて腰を逆にねじる。
背番号がねじれて見える上体には、巻いたゼンマイのような力が生じていた。
左足が空を蹴った。腰を回転させると共に、左足の踵が窪みを掴む。蓄えた力を一気に放つ。
腰の回転から上体へと力を伝え、伸ばした左腕を身体に引き寄せることで、力をさらに増大させる。
すべての動きから生まれた力を指先に集約し、ボールに強烈なスピードを与えて、達也のミット目掛けて解き放った。
「グッ!」
ミットから高い音が鳴った瞬間、達也の顔が痛みに歪んだ。
(…スピードもだが、この球威。イケるな)
衝撃と掌の痺れ具合に、達也は顔をほころばせる。
「すごい…」
ボールの威力は、ベンチにいる佳代逹にも解った。
「川口君、今日も調子良さそうね」
背中越しに葛城の弾んだ声を受け、佳代は表情を弛めた。
「早めに先制すれば、いけますよ!」
「そうね」
今は落ち込んでる場合じゃない。
(とにかく、出来る事をしよう)
そう言い聞かせてペンを握ると、スコアブックを広げた。