やっぱすっきゃねん!VQ-18
「廻れ!廻れーー!」
力ない打球がライトに抜けた。サードコーチャーの川畑は、右手をぐるぐる回した。
送球はセカンドに帰っただけ。達也は、3塁に余裕で滑り込んだ。
「おーーし!チャンス広がった」
3塁スタンドの声援が、歓声に変わった。
もちろん、尚美と有理も皆と同様に歓呼している。
「ここで、直也が打てば先制だ!」
このシチュエーションを前にして、尚美は興奮が収まらない。
「ユリ!行くよ」
そういうと、有理の手を取ってスタンドの最前列に向かいだした。
「ちょっと、ナオちゃん」
突然のことに、戸惑う有理。尚美と2人、金網の前に立つと、眼下に直也の姿が見えた。
すると、尚美はいきなり、
「ナオヤーー!打てよーー!」
あらん限りの声を張り上げた。
「な、何してるの!?ナオちゃん」
尚美の奇行を目の当たりにして、普段の冷静さを失う有理。
だが、尚美の方はノンシャランな様子だ。
「ほら、ユリも応援しなって!」
「じ、冗談でしょう?そんな人前で」
「もう!ちょっとはハジけなって」
「いやったら嫌!」
場違いなやり取りが続いている。ちょうど、その光景を直也は見ていた。
打席に向かう途中で、大谷西中がタイムを取ったのだ。
再びネクストサークルに戻った時、ひときわ大きな声に、スタンドを見上げたのだ。
いつも、目で追っていた姿があった。
(ここで決めたら…)
強い決意を胸に秘めていた。
「バッターラップ!」
タイムが解かれ、野手がマウンドから散った。直也は、ゆっくりと打席に入った。
「やっぱすっきゃねん!」VQ完