やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑱-17
６回裏、打順は４番達也から。攻撃を前に、ベンチ前で円陣を組んだ。
「狙いはカーブ。外はほとんどがスライダーだから捨てろ」
「おう！」
「どんなことをしてでも、点を取るぞ！」
「おおう！」
円陣が解かれた。
達也は、素振りをしてから打席に入った。
キャッチャーは、セカンドとショート、それに外野の位置を下がるよう指示をだす。
その初球。ピッチャーが投げると同時に、達也はバントの構えをとった。
コン！──
バントした打球は、３塁側に転がった。完全に意表をつかれたサードは、慌ててダッシュする。
ピッチャーも打球に駆け寄るが、ボールを掴んだ時には、達也は１塁を駆け抜けていた。
「よし！先頭が出たぞ」
２回以来の先頭ランナーに、青葉中ベンチから歓声があがった。
５番の加賀は、ネクストサークルから打席に向かいながら、ベンチの永井を見た。
（バントか…）
２回裏に、チャンスを潰したことが頭をよぎる。
（今度はきっちり決めてやる）
自分にそう言い聞かせて、打席に入った。
キャッチャーは、初球にシュートのサイン。ピッチャーは内角目掛けて腕を振る。
（シュート…）
腕の角度が低く見える。加賀はバットを引いた。
ボールは内角から、さらに懐へ食い込むように変化して外れた。
次の２球目も高めに外れて２ボール。
（次はストライクを取りにくるな）
加賀は再びベンチを見た。永井の出したサインは、バントではなかった。
（エンドラン…）
次のボールを必ず打つことを前提に、ランナーを進める作戦。
はまれば一気に３塁を陥れることになるが、最悪の場合ダブルプレーを招く。いわば賭けだ。
だが、バントを失敗していた加賀にすれば、幾分、気は楽になった。
再びバントの構え。達也のリードも、前の２球と変わらない。
キャッチャーは、作戦の変更に気づかずに外角を選んだ。
（セカンドゴロを意識して）
加賀は、そう心で念じた。
ピッチャーがセットポジションをとった。かなり広いスタンスだ。
短いステップから、上体を回転させて、大きく腕を振った。
加賀はバットを引く。突っ込もうとしたサードとファーストが、スパイクを滑らせて止めた。
達也は、２塁目掛けて土を蹴った。
ボールが外角低めにきた。加賀は、左肩が開かないようにバットを振りだした。
キン！──
打球は狙いどおりに右へ転がった。が、達也の走りで、セカンドは逆の動きをしてしまった。