やっぱすっきゃねん!VQ-11
(あの球、乾から聞いてたのに…)
達也を送れなかったこともだが、バントした時の球種は、事前に知らされてたのを完全に忘れていた。
(今は、落ち込んでる場合じゃないな)
加賀は、気を取り直して試合に向かった。
続くバッターは直也。右打席に入ると、左足をやや引いた。
構えを見たキャッチャーは、内角対応だと考え、サインを出す。
その初球、ピッチャーは、ランナーの加賀を十分牽制しながら、早い動きでストレートを投げた。
低く重い音がミットを鳴らした。主審が右手を挙げた。
外角低めの球。直也は引いた左足を踏み込むが、打ちにいかなかった。
「あいつ、外狙いバレバレじゃねえか」
初球のやり取りに達也は、「困った奴だと」言いたげな苦笑いを浮かべる。
「何で、そんなの解るの?」
となりの佳代が訊いた。
「最初、あいつの構えからキャッチャーはシュート狙いと思ってたはずだ。だから外でカウントを取りにいったんだ」
「ところが、それに反応しちゃった…」
達也が頷く。
「そう。だからもう、外には、まともな球は行かないな」
「なるほどねえ」
予告の通り、ヒットに出来るような外角球はこなかった。
2球目に力を抜いたシュートでファウルを打たせると、最後は、
(外角低め!)
初球と同様のコース。直也は、ライト狙いでバットを振るが、ボールは滑るように横へと変化した。
「達也の言う通りになった…」
キャッチャーらしい慧眼。佳代は、改めて達也の能力に驚いた。が、当の本人は気づいてないようだ。
「あいつ等、ミスリードしたな」
「何で?」
「最後のスライダー。ピンチでもないのに、使う必要があるとは思えない」
配球の妙味に話が盛り上がりだした頃、直也が悔しそうな顔で戻ってきた。
「佳代。今の話は後でな」
「何で?」
茶化してやろうとした佳代を、達也は止めた。
「あいつはピッチャーだからな。ダメ出ししてカッカさせると、まずいだろ」
先を見越した配慮。
(そういえば、わたしの時は励まされてばっかりだった…)
ピッチャー各々の性格をも把握して、試合をコントロールする。キャッチャーというポジションは、ピッチャー以上に存在感が大きいことを、佳代は初めて感じた。
結局、7番一ノ瀬も凡打に終わり、2回も無得点に終わった。