パワフル奥さま-1
「本当にそうなんですか?」
「だから、いま言った通り妻と腕相撲したのが原因です。それ以外に心当たりはありません」
「はあ・・・まあ、あまり詮索するつもりは無いですが・・・」
医者の先生は納得がいかない様な顔をしながら、診断書にペンを走らせている。
確かに、俄かには信じられないだろうな。
肩を脱臼した原因が妻との腕相撲だなんて。
此方としてはこれでもう3回目なので、嘘も糞も無い。この痛みは紛れも無い真実である。
しょうがないんだよ、あいつは人よりも少々力が有り余ってるんだからな。
痛いがこうも立て続けだと流石に多少は慣れてしまう。
これ以上肩を脱臼してしまったら、その内自分の意思で腕を取り外せる様になってしまうかもしれない。
妻に忠告の意味でそれを言ったら・・・
「すごーいひろくん!ロボットになっちゃうんだね!」
・・・だって。
まったく悪怯れる様子も無いし、それどころか夫が機械の体になるのを喜んでいた。
馬鹿でしょ我が妻は。そう、アホなんですよ。
背が小さくて小学生並の大きさなんだけど、その小学生だって他人を傷付けたら反省します。
まあ、まだ付き合ってた頃から妻が常識知らずのアホの子だというのは分かってたからいいんだけど。
ユーラシア大陸を国名と勘違いしてたし、炒飯をおにぎりと読んだ。
最初は可愛いなと思っていたが、すぐにその馬鹿さ加減に笑えなくなってきた。
弱肉強食を本気で定食屋の裏メニューと思い込んでいたし、今思い返してもぞっとする。
でも、妻は優しくて一途だ。
俺がどんなに遅くなっても嫌な顔ひとつせずに待っている。
イベント、特に誕生日をいつも楽しみにしており、無邪気にはしゃいでいる姿は可愛くて仕方ないのだ。
見た目は子供っぽいが酔うとキス魔になるギャップも魅力のひとつだと思う。
そして夜は・・・
いや、やめておこう。
他人の営みの事情なんて、聞かされても面白くないから。
そろそろ帰らなくては妻が心配するから、さっさと帰宅しよう。
待ってろよ、すぐ帰るからな。頼むから会いに来ないでくれ。
どうも嫌な予感がしてならない。