パワフル奥さま-5
腹も張ったし、風呂に入って寝るとしよう。
「お風呂入るの?じゃあ脱がせてあげる」
「いいって、自分でやれるよ」
「やらせてー」
「ついでに一緒に入ってくれ」
「やだー」
そこまではしてくれないんだよな、いつも。
こっちも本気では言ってないけど・・・
でも、たまにはこう、ぎゅっと抱き締めてほしくなるよな。
「・・・ひろくん・・・」
あれ?なんだ、今の呟きが聞こえたのか?
加奈はそっと俺の腹に手を回してきた。どんな事であろうと願ってみるものだな。
「お、おい、加奈・・・」
ちょ、ちょっと待て。
力を入れちゃダメだ、そこまでは望んでいない。
「怖いよひろくん、いる。あそこにいるの!助けて!」
あ、あれか。分かった、お前が怖がっている原因が。
そいつは床を這いながら、こちらを威嚇するみたいにじわじわ近付いて・・・
加奈は虫が苦手で、特に蜘蛛が嫌いなのだ。
口が横にうねうね動くのがどうしても受け付けないらしい。
俺は虫自体は好きでもないが別に躊躇なく触れられる。
「外に出してきてやるから、まずこの腕を離してくれ、な?」
「やだ、行かないでひろくん!私を1人にしないで!」
「無茶を言うな、加奈。いい子だから離せ。そうしないとずっと怖いままだぞ」
「怖いの嫌だ!だから1人にしないで!いやぁああああぁああ!!」
とりつくしまが無いとはこのことである。
なんとかしてやると言ってるのにこれでは話にならないじゃないか。
そ、それより、腕が万力みたいに締めあげてきて、痛い。物凄く痛いぞ。
このままでは上半身と下半身が離れてしまう。加奈の束縛から逃れられるが、同時に人生からも逃れてしまうよ。
「いだだだだだだだ、か、加奈、お願いだから離してくれ!」
「蜘蛛がこっちに来てる!助けてひろくん!」
助けられるべきなのは俺の方だと思うんだけど?!
「いやぁああああぁああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「ぬぉおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉぉお!!」
なぜか加奈は仰け反り俺にバックドロップを仕掛けてきた。
避けられる筈もなくそのまま脳天から床に叩きつけられる。
「・・・あ、ごめん、ひろくん」
返事がない。ただの肉塊の様だ。
原因はお前だ。
「蜘蛛さん、どっか行っちゃった」
そうか、笑っておくとしよう。
〜おしまい〜