パワフル奥さま-3
これ以上いると目立つので家に戻る事にした。
トラックの運転手さんに加奈と一緒に頭を下げ、帰路につく。
「あっ」
マンションの入り口に自転車が止まっている。
それも1台どころか10台近く並び、バリケードみたいになっていた。
車体はどれも小さいので、恐らく小学生の集団だろう。
友達と遊ぶのは結構なんだが少しは他の住人の事も考えてほしいもの・・・
「ひろくん、下がってて。すぐ片付けるから」
「えっ?ちょっと待て加奈、おい・・・」
加奈は何のためらいもなく自転車を片手で持ち上げた。
両手で2台をいっぺんに持ち上げ、あろう事かいきなりぶん投げた。
こうして文章で書けば簡単そうに見えるが、大人でも自転車を持ち上げるのは至難の業だ。
だが加奈は出来てしまう。怪力だからな。
投げられて宙を舞う自転車の群れにしばし見惚れていた。
もし、普通の人と結婚していたら、こんな光景は見る事が出来なかったに違いない。
ただ投げるだけでなく近くの駐輪場に着地していく自転車。
きっと加奈はなんにも考えてないんだろう、ただの奇跡だ。
加奈はアホだけど度々こういう小さな偶然という名の奇跡を起こしてきた。
「さ、帰ろひろくん」
「ああ」
遠くで買い物帰りの奥様方が呆然としているのが見えたが、気のせいだろう。
いちいち気にしていたらきりがない。それに、誰かを傷つけた訳では無いのだ。
さっきみたいに驚かせたら謝らなくちゃいけないけど。
「来ないね、なかなか」
エレベーターのボタンを連打する加奈。
押す回数と速度は関係無いんだから止めなさい。
もし陥没させたらこれで5回目になるので、本気で止めに入る。
「仕方ないな、階段で行こう」
「いいけど嫌だ。10階まで登るの面倒だよ」
ふふ、おかしな返事をするんだな。はいといいえを合体させるとはいいセンスだ。
・・・段々俺もアホの子になりつつあるのは否めない。
「仕方ない、ひろくん。こっち来て」
「どこに・・・お、おい、ちょっと加奈?」
俺のうなじをつかみ、ずるずると引き摺る加奈。
果たして愛する夫に何をやらかすつもりなんだろう。嫌な予感しかしない。
「んっと・・・この角度なら大丈夫かなぁ」
加奈は見上げながら、手に力を入れた。
まさか?!やめろこの馬鹿力。俺に何をやらかすのか分かったぞ、だからやめるんだ。
お願い止めて!未亡人になりたくないだろ?!