『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-98
「ちっ…！」
続いて聞こえてくる銃声。恐らく粉塵に紛れて敵機が現れたのだろう。
先ほどの攻撃は、建物越しに無人機が空中に爆発弾を放ったものに違いない。
『固まれっ！ 同士討ちだけは避けるんだ！』
グリッドの声が響き、粉塵の中で影を頼りに味方の元へ集結する。視界が利かない中での射撃は、弾幕射撃になってしまう。バラバラの状態でそれをやるのは愚の骨頂である。
『アルファに合流します』
『前の敵は俺たちが蹴散らしてやるっ！』
アリシアとアレクの声。トレーラーと思しき影が、アルファが居るであろう方向へと速度を増しながら移動する。ベルゼビュールは、それを援護するようにトレーラーの後方へ射撃を行いながら後退する。アレクとグリッド機は、前の敵を掃討している筈だ。
後退するベルゼビュールの足元付近に敵の弾が着弾し、瓦礫を巻き上げる。
そして爆風で一瞬少しだけ晴れた視界の中、後方少し離れた所に一機のアーゼンが居た。
「……遅れたか……？」
アレクとグリッド以外の、もう一機のアーゼンだろう。
エリックの射撃に巻き込まれなかったのは良いが、先ほどの爆発で足がやられたのか壁によりかかる形のまま動けないようだ。
構っていては自分もトレーラーとはぐれると思い、一瞬逡巡した後にエリックはアーゼンを見捨てる決断を下す。が、その一瞬が命取りだった。
予想外にスピードを増していたトレーラーは、意外と離れてしまっている。
「ちっ…！」
それを追いかけようとしたベルゼビュールの前に、爆発の起こったわき道から飛び出す無人機が三機。去り行くトレーラーをターゲッティングしていたそれらを、走り寄ったベルゼビュールは左手のナックルシールドで殴りつけ、二機まとめてマシンガンで撃ち貫く。
三機を手早く片付けたベルゼビュールは、既に影も見えなくなったトレーラーを追いかけようとした。ふとそこで嫌な予感を感じたエリックは、ベルゼビュールをバックステップさせる。直後、先ほどまでベルゼビュールの居た場所に敵の弾が着弾した。
ベルゼビュールを回頭させて攻撃予測位置に目を遣ると、未だ治まらない粉塵の中、反対側のわき道からいつのまにか現れていた無人機らしき影が目に入る。そこへボムを射出し、ベルゼビュールは更に後退する。もはやトレーラーと合流するのは難しいと判断したのだ。
「……くそ……？」
際限なく現れる無人機から離れる内に、エリックは先ほど見たアーゼンの傍へと移動していた。アーゼンの居る方向は無人機の影が見える密度が薄いように感じたエリックは、ついでと言わんばかりにシールドを捨てると、アーゼンに肩を貸す形で担ぎ上げる。
そしてそのまま、無人機が少ないと思われる方向へと移動を開始する。
「射撃を頼むっ！」
ここまで囲まれていれば、もはや回避力などは期待できない。ならば弾幕を張って、射撃させないようにするまでだ。アーゼンは了承したと言わんばかりに、前方へと弾幕射撃を再開する。ベルゼビュールも、残った腕で持ったマシンガンを掃射する。
後方は射出するボムに任せ、ベルゼビュールはできる限り速度を上げる。さすがにアーゼンを支えているだけあって少し遅いが、それでも並みのワーカーよりは余程早い。
少しずつ、後方の無人機を引き離していく。
爆発と銃弾を撒き散らしながら、ベルゼビュールとアーゼンは走り続けた。