『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-81
(マズい事になった…)
思いながら、エリックは二足歩行メカの集団へとダッシュをかける。
こうなったら、収納された高性能ボムとそれを使う左腕一本でなんとか凌ぐしかない。
突っ込んできたベルゼビュールに対して、二足歩行メカ達が照準を定める。
それを見て取ったエリックは、ベルゼビュールの走る勢いそのままに、左手に持った敵機を回転投げの如く放り投げる。いくら二足歩行メカがワーカーより小型とはいえ、これはベルゼビュールのパワーあっての事である。
手前まで飛んでくる大きな物体に照準は変更され、十数機分の爆発弾がベルゼビュールに投げられた二足歩行メカへと降り注ぐ。原型も残さぬスクラップの誕生を見届ける事も無く、ベルゼビュールは一気に二足歩行メカの群れの中へと突っ込んだ。
まず先頭の一機にタックルをかけ、吹き飛ばして後ろの敵ごと体勢を崩させる。
そしてボムを排出しながら、素早く二足歩行メカ達の間をすりぬける。
その間にも次の砲撃タイミングが来る事を予想し、最も奥に居た敵の背面へと回りこんで、敵機に対しての盾にする。こうすれば一瞬の躊躇が生まれ、その間にばら撒いたボムが敵を一掃してくれる筈だ。
しかし、エリックは失念していた。相手は恐らく無人兵器だという事を。
何の躊躇も迷いも無く放たれた爆発弾は盾にした敵機ごとベルゼビュールを吹っ飛ばした。
次いで、ばら撒いたボムが爆発。敵機はあらかた葬り去られた。
「……ふぅ」
強固な装甲が幸いして、ベルゼビュールは活動可能な程度の損傷で済んでいた。前に味方機が居るのにもかかわらず砲撃が行われたため、爆発弾の何発分かが軽減されたのも救いだった。そう考えると幸運なのかも知れないが、右腕部が故障しなければもっと楽にすんだ事をかんがえればチャラだろう。
一安心するエリックだったが次の瞬間、思わず顔を顰めた。再び、十数機の二足歩行メカがこちらに向かってきているのを発見したのだ。
「キリがないぞ……」
ボムは、もうない。先ほどの衝撃で壊れた左腕では、相手を掴む事もままならない。
その時。エリックの…ベルゼビュールの横をすり抜けて、二足歩行メカの群れに突っ込んでいく物体があった。それがワーカーだ、とエリックが知覚した時には、既にそのワーカーは敵からの砲撃を上空に飛んでかわしていた。そしてそのまま、空中から左手に持った銃を乱射する。そうやって数機を倒したかと思えば、着地ざまに右腕のナックルシールドで手近な一機を叩き潰す。そのワーカーは、瞬く間もないような速さで敵を殲滅し…
…戦いは、次の砲撃タイミングを迎える事無く終わった。
敵を全滅させたワーカーは、ベルゼビュールの方へと歩み寄ってきた。
よく見れば、エリックはそのワーカーに見覚えがあった。
『大丈夫…で…か?此処…危険です…ら、新手が来…い内に退避…ましょう』
透き通った透明感のある青年の声が、指向性通信に乗ってスピーカーから流れてくる。
電波の影響なのかノイズが酷いが、聞き取れない程ではない。聞き覚えのある声だ。
そのワーカーは、レイヴァリーの戦いでエリックを追い詰めた機体だったのだ。
声からすると、搭乗者も同一人物と見て間違いない。
恐らくこのトレーラーを助けに来たのだろう。正直今の状態でこのワーカーに勝てる見込みなどまるでなく、助かった事には助かったが困った事になったというのが正直な感想だ。
そんなエリックの思惑を他所に、ワーカーはベルゼビュールの方へと駆け寄って来る。
『レイヴァリ…に居ま……よね?大…夫。今…は敵……ありませ…』
敵ではない。そう主張する青年の声は、なんとなく信じても良い様な響きを持っていた。
だが完全に信用する事もできず、エリックはワーカーが横倒しになってるトレーラーを起こし、引っ張り始めるのをただ見つめるだけだ。
「……」
暫し眺めるだけだったエリックだったが、どうせこの状況では逃げた所で死ぬだけだと、トレーラーを押してワーカーを手伝い始めた。