『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-80
(…俺が行く前にやられてたら、意味ないけどな)
そんな事を考えつつ、格納されているベルゼビュールへと乗り込み、起動させる。
『よし…アームを排除して、扉を開いてくれ』
『あいさ、振り落とされんなよ?』
通信で運転手に告げると、ベルゼビュールを固定していたアームが取り払われ、トレーラーの貨物部側面が上に開いていく。光が差し込み、ベルゼビュールの白銀を照らす。
ベルゼビュールを外に乗り出させるようにして前方を確認すると、まだトレーラーは生き延びているようだ。しかし車体の方に限界が来たらしく右前輪が外れ、バランスを崩してそのまま横転。滑りながら街道の交差ポイントを越えていく。
横転したトレーラーと二足歩行メカ達の間に割って入るように、スピードを上げるエリックの乗るトレーラー。交差ポイントが迫る。
『突っ込むぞ。後は頑張ってくれや』
『…あぁ、判った。じゃあな』
言うなり、エリックは機体を宙に躍らせた。
滑り、盛大に地面を抉りながら、ベルゼビュールは着地する。
飛び降り間際に掃射したライフルの銃弾が、二足歩行メカの一機を捉えていた。
エリックを乗せていたトレーラーはそのまま直進し、遠ざかる。
それを見送る暇も無く、二足歩行メカ達がベルゼビュールにターゲットを変更する。
五機程の二足歩行メカから、一斉に掃射された爆発弾。ベルゼビュールは着地した際の勢いを殺しきらずにダッシュして爆発を振り切ると、そのまま上体を捻って、反撃に転じた。
敵の爆発弾は装填に少し時間がかかる筈。クリスと共に生き延びた地下空間の経験を、エリックは思い出す。
「お前らとの再会を懐かしんでる場合じゃないんだ…!」
低く呟いてライフルの照準を合わせ、続けざまに三連射を撃ち込む。
胸部に連続して穴を穿たれ、二足歩行メカがまた一機、青白いスパークと共に倒れる。
大した時間をかけずに弱点を狙う事も、今のエリックには容易い事だ。
あの頃とは違う。その事を自分に言い聞かせ、エリックは次の標的に狙いを定める。
立て続けに吐き出される銃弾に、二足歩行メカがまた一機、機能を停止した。
だがライフルを掃射した瞬間、ライフルを持っていた右腕部の反応に生まれた微かな違和感。それをエリックは敏感に感じ取っていた。
ハイ・テクノロジーを駆使されているベルゼビュールの修理は、街のワーカー修理所では難しく、どうしても復元できない部分は同じサイズの規格部品を使ったのだ。それがまずかったらしい。テストの時には異常無かったのにと、エリックは埒も無く思う。
「…ちっ!!」
そんな思考の途中でもお構い無しに襲う砲撃を、ベルゼビュールは横っ飛びで回避する。
(とりあえず…まだ動く…!)
敢えて違和感を無視して、エリックは残り二機となった二足歩行メカの片方へ、一気に肉薄してタックルをかけた。そのまま、もう片方に照準を合わせ、引き金を引く。
タックルで吹き飛ばされた方も銃弾を喰らった方も、もう動く様子は無い。
「……ふぅ…なんとかなった……か…?」
ため息をついた途端に嫌な予感を感じ、エリックはベルゼビュールの頭を南へと向ける。
そこに見えたのは、続々とこちらに迫ってくる二足歩行メカの群れ。
「……」
舌打ちする事すら馬鹿らしくなって、エリックは黙ったままベルゼビュールを二足歩行メカ達に向けて向き直らせる。相手の数は十数機。接近戦に持ち込んで、一対多数の戦法に持ち込めばやれなくもない。とりあえず役にたたなそうなシールドを破棄すると、機能停止している二足歩行メカの一体を掴み上げる。この間のように、即席の盾にするのだ。
「…その前に、少しは減らしておくか…」
ぼやくように言って、ライフルの照準を戦闘の敵に合わせようとする。
しかし。
『ギャリッ』という音と共にベルゼビュールの右腕は止まり、それ以上上がらない。
「畜生っ!故障か!?」
思わず毒づいている間にも敵は接近している。