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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-79

第三十話 《変後暦四二四年二月三十日》


 自己嫌悪、孤独、不安…そんなものを感じながら、エリックはトレーラーのシートに身を委ねていた。不規則な振動が引き起こすまどろみの中で、胸が鈍く痛む。
一人になってから一週間が経つが、それでも罪悪感や孤独感が消えるには時間が足りない。
「しっかし兄さんも馬鹿だね〜?わざわざ軍が立ち入りを禁止してる所に行こうなんてさ。…っと、それを言ったら、兄さんを運んでる俺も同じか!?あっはっはっはっは!」
 運転手の笑い声。金で何でも運ぶ、いわゆる「運び屋」という仕事をしている男だ。
「………」
 エリックは答えず、シートに沈み込んでいた上体を起こす。
窓の外へと目をやり、ぼんやりとここ数日の事を思い出した。
 X2達と分かれたエリックは、レイヴァリーに起こった現象について調べ始めた。
傭兵組織のネットワークを使って手がかりを集めたところ、ナビア軍の動きに変化があったらしい。レイヴァリーの北側に非常線を張り、兵力を集めているというのだ。
その先には、進駐したナビア軍の司令部が設置されているジュマリアの首都『レアム』。
恐らくレイヴァリーに現れた『謎の勢力』とやらは、首都へ移動しているのだろう。そしてまだ、活動を続けている。そう判断したエリックは、映像に映っていた無人兵器の真実を確かめに行く事を決意したのだ。
資金は、レイアーゼを売り払う事によって賄った。足元を見られた事もあって相場の一割に満たない値段で売却する事になったが、それでも結構な資金になった。ベルゼビュールの修理と運搬費用が稼げれば十分だったのだ。
「…まったく、無愛想な奴だなぁ…」
 運転手は、答える様子の無いエリックに対してぼやくと、街道脇に立っている標識に目を遣る。標識に拠れば、軍が立ち入り禁止を指定している地域までは後少しだ。
ここから道は曲がりくねりながら、山を登ってゆく。
そしてその山を降りて少しすれば、立ち入り禁止エリア真っ只中である。といっても民間人を止める為に作られた急ごしらえの非常線であり、エリックにしてみれば警備は全くのザルな筈だ。まずは警備網の中に潜入して、内部の様子を見なければならない。
もちろん内部に潜入したからといって事の真相が判るとも限らないが、他に方法が無い以上は仕方ないだろう。
(まずは情報を集める手段探しだな…)
 エリックが考えている内に、トレーラーは山を登りきっていた。
「もうそろそろポイントだが、何処で降ろせば…って、なんだありゃ…戦闘か?」
 運転手が、山の麓に目を遣って呟いた。
「…?」
 エリックも、つられるようにしてそちらに視線を遣る。
山を下った辺りでエリック達が居る東西に伸びた街道と交差している、南北に伸びる街道。その南…レイバヴァリーの方から、トレーラーが映像で見たのと同じ二足歩行メカ複数に追い掛けられていた。武装の無いトレーラーは、ただひたすらに相手を振り切ろうとするが、二足歩行メカの砲撃を避けるために左右へ車体を振っている為、速度が出ないようだ。
やられるのも、時間の問題だろう。
「…あそこの、街道が交差する所まで頼む」
 エリックはそう言って懐から金の入った封筒を取り出して運転手に渡すと、シートから身を起こして貨物部分へ続く扉へと向かう。
「毎度。助けるつもりかい?漢だねぇ」
 冷やかしのような声が聞こえたが無視し、そのまま貨物部分へと消えるエリック。
別段、人助けのつもりは無い。あのトレーラーは武装して居ない事から見て、好都合と思ったのだ。とりあえず敵を排除してから事情を聞けば、ある程度の情報が期待できる。


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