『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-73
そこからのエリックは、堰を切ったように話し出した。
クリスとの出会いから、アルファやアリシアの事、ミーシャの事、クリスを失った事…そして傭兵になってからあった事。クリスと同じ外見をしたX2に対する複雑な思い。
やはり、誰かに話したかったのかも知れない。
「………すまない」
話は、謝罪によって締め括られた。
思えばミーシャを犠牲にしたのも、エリックの勝手によるものなのだ。
それに、カイルを殺したかも知れない相手に惹かれてしまったというのもある。
「ん?話は判ったけど、何で謝るんだよ?」
全ての話を聞いても、カイルは変わらずカルかった。
「………」
「ミーシャが選んだ事だろ?お前はアイツの保護者でも無いんだし、偉そうに責任背負ってんじゃないっつ〜の!」
後に一言『ば〜か』と付け足し、カイルはカラカラと笑った。
相変わらず、落ち込むとかいう言葉に縁が無い。
「…お前は、悲しくないのか…?」
思わず、疑問がこぼれる。ミーシャの事を聞いても全く変化の無いカイルの態度は、さすがにおかしいと思わざるを得なかった。
「……そりゃ〜親友だったから、な。でも…アイツはお前の為に命を懸けても良いって思ってて、その通りに生きられたんだからそれで良いんじゃないか?元々俺等パイロットってのは、そうゆうもんだろ?俺がミーシャの立場でも、そうしたさ」
いきなり真顔になって、カイルは語る。物憂げな表情と哀しげな微笑は、数年付き合っているエリックも初めて見る顔だ。
「…カイル……」
「……ってな!だから、あんま気にするなよ〜?」
呟きかけたエリックの声を遮るように、カイルはニカっと笑って見せる。
先ほどまでの表情からは、想像もつかない変わり身だ。
「……ありがとう」
カイルに聞こえないように、エリックはそっと呟いた。
きっとカイルが聞いたなら、止せと言うに決まっているから。
しかし軽くなった心の分だけの感謝は、口に出しておきたかったのだ。
「…あ〜〜〜頭痛ぇ…二日酔いでも、ここまでひどいのはなったトキないぜ」
突然。頭を振り振り、カイルは苦笑する。気分が悪くても笑みは絶やさないらしい。
「…大丈夫か?」
とりあえず聞いてみるエリック。聞いてどうなる訳でもないが、聞かずには居られない。
「ま、俺は笑顔の似合うナイスガイ。見苦しい所は見せないのさ……ってか、お前はどうなんだよ?」
カルい調子で、逆に尋ねられた。エリックは訳がわからず、妙な顔をしてしまう。
「?」
「……そのコの事だよ。一緒に居るのがツラいって顔してるぜ、お前」
X2を目で指すカイル。いきなり核心を突かれ、エリックは動揺する。
「今の話聞いててもさ、混同してるんだろ?別のコと」
ズバズバ、切り込んでくるカイル。エリックに心の準備をする暇も与えない。
「これ以上一緒に居て、クリスってコの事を忘れんのが、嫌なんだろ?」
一言一言、カイルの言葉は的確に、エリックの心の急所をついてくる。