『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-69
「くそ……っ!」
気を持ち直したエリックが、着地した敵機を確認しようとする。
しかし………
『………………ぐっ………』
隣のレイアーゼ……カイル機の両腕が飛ぶ。
『う…っ!』
反対側に位置していたX2機は、銃を持った左腕と右足に穴を穿たれ、膝をついている。
エリックは思わず呆然としながらもベルゼビュールを回頭させ、敵機を確認する。
着地した時と変わらぬ場所に、ソレは居た。アーゼンと似た鉛色の装甲に、しかしアーゼンとは似つかぬフォルムで。左腕には銃口が二つある特殊銃(恐らく通常弾とニードル弾を使い分ける為だろう)を持ち、右腕には鋭角的なナックルシールド。
エリック機の銃を持った腕が潰れているのを見て取ってか、攻撃をしてくる様子は無い。
しかし銃口は確実にベルゼビュールを狙っており、いつでも止めを刺せる状態だ。
先ほどの銃撃は、わざと外したのかも知れない。
「………ちっ……」
エリックは思わず舌打ちをする。絶望的な状況だった。
『……直ちにワーカーを降りて、投降して下さい。今ならまだ、貴方達を保護できます』
敵機からの指向性通信。
スピーカーから、聞こえた声。それは透明感のある、青年のものだった。
『乱戦になってからでは遅いんです。早く……』
どうやらエリック達の事を助けるつもりらしい。
『……エリック……』
別回線で、X2が指示を仰ぐ。見る限り、相手に隙は見当たらない。
「…ここは仕方ないか……」
無駄死にするよりは、投降した方がいい。エリックがそう判断しようとした時だった。
『まずい……全員退避しろ。レイヴァリーから離れるんだ…っ……』
隊長からの通信が入る。どういう事かとエリックが尋ねるその前に、通信は途絶。
続いて、レイヴァリーの方向で大規模な爆発が起きた。
『…………!?』
思わず振り向いた敵機。
「カイル、俺に着いて来いっ!!X2、行くぞっ!!」
隙を逃さず、ベルゼビュールの腰部から煙幕弾を射出。
『っ!?』
一気に吹き出る白い煙幕に、敵機が振り返った。
ベルゼビュールは煙に紛れて、無事な方の腕で片足の利かないX2機の腕を引っ張って走り出す。足まわりは無事なカイル機が、それに続く。
急いでその場を離れる三機。煙幕で視界が遮られている為か、追ってくる様子は無い。
そのまま煙幕を抜け、ナビア勢力のすぐ後ろを西へと移動するが、意外と気付かれない。
『……くそっ!なんだコイツらっっ!!』
ヲルグからの通信だ。
『レイヴァリー内から謎の勢力が出現、攻撃を受けている』
ギザの声も、聞こえる。
「どうなってるんだ!?」
確認したいが、レイヴァリーまでは距離がありすぎる。
加えて、ナビア勢力が視界を遮っていた。
『判らん。ともかく俺はレイヴァリー内へ向かう』
『よし、俺も行くぜっ!!』
逃げろと言われても、やはり隊長が心配なのだろう。
「……すまない、俺は戦闘不能だ。離脱する」
ギザとオルグについて行く事はできない。口惜しいが、今のエリックでは戦力にならないのだ。加えて、やらなければならない事もある。
『まぁ、ハナから逃げろって言われてんだ。無事に行けよ?』
「ああ…お前達も気をつけろよ」
『判ってるっつの』
通信を切って、心の中で別れを告げる。しかし、感傷に浸っても居られない。
今はまず、X2とカイルの二人を逃がさねばならないのだ。
ベルゼビュールはカイル機を従え、X2機を背負って、走り続けた。