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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-58

覚悟を決めて、エリックは通路へと飛び出す。背後から強襲すれば、四人でも倒せる可能性はある。それにはまず、敵兵たちが反応するその前に、できるだけ肉迫しなければならない。幸い敵兵達の注意はエリックに向けられる様子もなく、そのまま研究室に向いている。時折放たれる銃声が、エリックの気配を隠してくれる。
エリックは急いで、しかしできるだけ音を立てないように、敵兵達へと接近する。
「…じゃあな…!」
 銃声が通路内に木霊し、エリックの持った拳銃が放った銃弾が、敵兵の頭を撃ち抜いていた。かなり接近していたため、大して狙いをつける必要もない。
やっと反応した敵兵たちの頭を、次々と撃ち抜く。躊躇ったりは、勿論しない。
とりあえず居た敵兵は排除したその瞬間、研究室からX2が飛び出してくる。
「……………」
 銃を構えたX2と、睨み合う事暫し。どうやらX2、大した怪我はないようだ。
X2の様子をエリックが見て取った瞬間、X2の構えた銃が火を吹いていた。
エリックは思わず目を瞑り、観念する。この距離で撃たれたならば、かわしようは無い。
数発響く銃声。不思議と痛みは無い。
「行くぞ」
 目を瞑っていたエリックにかけられる、X2の声。
目を開けた途端、背後で人が崩れ落ちる音がする。
どうやら、エリックが上ってきた階段から敵兵もやってきていたらしい。
それをX2が倒してくれていたのだ。
エリックはようやく状況を把握すると、既に走り出しているX2に続いた。
助けに来た筈なのに、何か立場がないと感じつつ。

 「ゲートがまだ空いてるといいが……閉まってたらまずいな」
 幸い敵に遭遇する事も無く、エリックとX2の二人は通路を走っていた。どのくらいの時間が経っているのか。秒単位で時間を計ったりなど、通常しない。
「もとより、私はあそこで死ぬ予定だった」
 淡々と言うX2。
「そういうなよ。せっかく………」
エリックはどう続けるか、多少戸惑う。さすがに、彼女を助けに来たとは言い辛い。
「いや、なんでもない」
「そうか」
 明らかに不自然ではあったが、X2は突っ込んで聞く事はしない。
そのまま淡々と走り続ける。
「…疑問に感じないのか?」
 思わずエリックの口をついて出る疑問。自分のした話に疑いを持たせるというのも奇妙な話だが、つい尋ねずには居られなかったのだ。
「疑問を感じる事は禁止されている」
「どういう事だ…?」
 X2の回答は、エリックの理解を超えていた。訝しげに、エリックは呟く。殆ど自問自答の問いのようななものだったが、X2は聞き取ったらしい。
「私達H・Sは兵器だ。命令を実行する為の思考以外、必要ない」
 手短に答える。やっと、エリックは得心がいく。普通の人間以上の能力を持っているが故に、厳しく管理されているのだろう。疑問を持たなければ、反乱を起こす事もない…と。
「………だが…」
 少し考え込みそうになったエリックに向けて、X2は言葉を続けた。だが。
「……発言を撤回する」
 X2らしくもなく、すぐに言葉をしまい込む。
「?………!」
 疑問を感じたエリックが質問するその前に、X2は前方の十字通路から飛び出してきた敵兵の頭を撃ちぬく。一瞬の早業だ。エリック達のエリックが思わず感嘆したその瞬間、続けて二人目が飛び出してくる。
素早く、一瞬で狙いを定めるX2。しかし
 カチッ
「……」
 弾切れ。それを知らせる乾いた音が響き、X2は迷わず新たなマガジンを装填する。
しかしただそれを見ている敵兵でもなく、当然持っていたアサルトライフルをX2に向けている。エリックはX2の前に躍り出ながら、敵兵の胴体を狙って引き金を………
「エリ……ック………?」
 呟くような声。響く銃声。弾丸は敵兵には当たらず、その腕を掠めただけだ。
「カイル……なのか…?」
直前で銃口をずらして的を外したエリックは、呻くように呟いた。
エリックの方を呆然と見ている、カイルに向かって。


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