『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-43
皆、思い思いに散って行く。隊長が、エリックに寄ってきた。
「レイチェはどうした?」
いきなり、核心に触れてくる。
「…………」
エリックは、黙って首を横に振った。
「…そうか。此処での仕事は、五日間基地の防衛を補助する事だ」
それで全てを察したのだろう。隊長は、それ以上何も聞く事無く、部屋を出て行った。
他の隊員も、少し沈んだ表情でそれに続く。ぽんと、シヴが慰めるように肩を叩いていった。だが、それだけだった。
今のエリックにかける言葉など無いと、判っているかのように。
「……行かぬでゴザルか?」
そのまま佇んでいるエリックに、男が声をかけた。
エリックは、陰にこもりそうな思考を押さえ込み、口を開く。
「カゲトラさん、ですか?」
「…?そうでゴザルが………」
自分の名を呼ばれ、怪訝そうな顔をするカゲトラ。
そんな彼に向かい、エリックは疑問を口にする。
「俺をここまで運んだのは、誰です?」
あの時に感じた感覚。あれは……
「?何故そのような事を?」
訝るような視線を向け、カゲトラはたずねてくる。
「教えてください。」
「…………判ったでゴザルよ。着いてくるでゴザル。」
真剣なエリックの目に、カゲトラは質問を打ち切って歩き出した。
エリックは、黙ってそれに続く。
………。
双方無言のまま歩くこと暫し。
とある部屋の前まで来て、カゲトラはやおら立ち止まる。
「ついでに、ヌシの部屋にも案内するでゴザル」
と言って、エリックの方に振り向いた瞬間。
「ん?」
何かに気付いたかのように、カゲトラはエリックの後ろへと視線を走らせる。
「?」
それにつられて、エリックも振り向いてそちらへと視線を走らす。
と、誰かが早足に近づいて来るのが見えた。
「あれは………?」
エリックの口から、言葉が零れ出す。
その人物は二人の前まで来ると、ぴたりと立ち止まった。
その拍子に、亜麻色の髪がふわりとたなびく。
「先の戦闘における被害報告。全小隊、人員的損害無し。弾薬残量三十八%……予想耐久時間、残り二週間に修正。以上」
淡々と、その人物はカゲトラに報告する。凛とした響きの声で。
その間エリックはただ、呆然とその人物を見つめていた。
「相判った。そうそう、丁度良かったでゴザル。彼女がヌシを運んだ………」
カゲトラが、その人物をエリックに紹介しようとする。
彼女も、それに合わせてエリックの方を見る。
しかし、エリックはカゲトラの話の続きを聞くまでも無く、先に反応していた。
「クリスっっ!」
抑えがたい衝動がエリックを突き動かし、彼は思わず彼女を抱きしめていた。