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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-148

「一気に殲滅するつもりか……!」
 白兵戦はエリックの望む所だが、それは相手の意表をついた形での話だ。相手の真ん中に飛び込むのと、相手に包囲されるのでは意味合いがまったく違う。
さすがに五機に包囲されての集中砲火を、至近距離で受けてみる気はない。しかし一気に飛び出すにしても、接近しながらも絶えず弾幕が張られている為に飛び出せない。
先ほどボムを射出した際に再び駐車場へ戻らず、距離を取っておけば。そう思うが、視界の利かない状態で長距離の移動は危険だったろうし、何より後の祭りだ。
「なら……」
 ベルゼビュールは再びボムを射出し、ペールIVの迫る大通りへと投擲する。今度は破砕用ではなく、煙幕弾だ。
少しの間を置いて炸裂したボムの煙幕を壁にして、ベルゼビュールは一気に駐車場を飛びだす。相手も当然予想していたらしく、集中砲火が飛んでくる。
 相手にハッキリ視認されていないとはいえ、面で飛来する弾幕を避けきる事は難しい。銃弾のいくつかがベルゼビュールを捉える。弾幕は例によって特殊装甲に弾かれたが、それでも衝撃が、ベルゼビュールをコクピットごと激しく揺さぶった。
「く……っ」
 転倒しかけた機体を御しながら、エリックはひたすら走って距離をとる。サブディスプレイに表示された機体の自己診断イメージが、各所の装甲が削れている事を知らせた。
 相手側には観測手が居るらしく、相手はベルゼビュールの挙動を把握しているようだ。爆煙も晴れていないうちから、駐車場入り口からベルゼビュールの走る方向に弾幕の厚みが移動してくる。敵の銃弾は衝撃でベルゼビュールの速度を鈍らせ、装甲を削り取る。
一発弾くごとに自ら削れるナインの新装甲は、連続した攻撃に弱い。このままでは表面装甲を削り取られて、脆弱な内部装甲を晒す事になるだろう。
 エリックも勿論手をこまねいて居る訳でもなく。距離を取りながらも応戦している。だが自分の用いた煙幕が照準を阻害し、勘でおおよその位置を狙うしかなく。しかも銃撃を受けて体勢を崩しながらの射撃など、相手のように数を頼んで弾幕を張らなければ当たるものではない。
「これは……まずいか……」
 戦慄を覚えながら、先に見える突き当りの三差路に向けてベルゼビュールを走らせる。それを、煙幕を抜けてきたペールIV達が追撃してくる。視界が利くようになって、ベルゼビュールへの着弾率が跳ね上がる。が、それはベルゼビュールにとっても同じ事。エリックは各所への着弾で浮き上がるレバーグローブを押さえつけながら、右端の一機を狙い打つ。二百メートル弱といった距離からの銃撃はペールIVの胸部に弾痕を刻み、その銃を持った腕を損傷させる。どうやら胸部へ着弾した弾はコクピットまで突き抜けたらしく、ペールIVの膝間接部が弛緩し、ぐらりと揺れる。そしてその倒れる間すら待たずにエリックはステップを踏み、もう一射。横薙ぎに撃ち払った弾丸の幾つかが、倒れる機体の隣に居たペールIVを仕留める。
残りは三機、しかし敵の集中砲火に晒されているベルゼビュールのダメージも深刻だ。
「もう左腕は使い物にならないか……」
 ケーブルが断線したのだろう。左腕からのフィードバックが無くなった事を受けて、エリックは左手をレバーグローブから抜いて、コンソールパネルにあてがう。
 自己診断イメージが、左腕の損傷と表面装甲の剥げた場所を表示している。ナノマシンの自動修復も行われているものの、それが間に合うような攻撃ではない。ベルゼビュールは、面積的に言えば半身が丸裸に近い状態だ。いかにベルゼビュールとはいえ、表面装甲の剥げた状態での強度はたかが知れている。
「……ちっ」
距離を取りながらも左右に不規則なステップを入れる事によって集弾率を下げてはいるが、それにも限界がある。じりじりと追い詰められていく焦れったさに舌打ちしながら、目前に迫る三差路に飛び込もうとした時。
 踏み込んだペダルが、異様な軽さで沈んだ。


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