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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-129

「……というのは建前でな。お前は格納庫から重要器材を略取、尋問に当たった俺たちに激しく抵抗した事になっている」
 覆しようの無い状況の所為だろう。わざわざ説明してくれる兵士の言葉に、エリックは納得がいった。
「なるほど、俺を消す良い機会って事か。何れにせよ、何らかの理由をつけて始末される予定だったと……そういう訳だな」
 エリックは国を捨て、同胞の兵士を殺した反逆者だ。アルファの発言力でどうにかなるという事でもなかった、それだけの事だろう。
「悪いが、お前を生かして置くのは危険だと上層部は判断したのでな。お前の働きぶりは聞いているから、少し心苦しいが……」
「いや、気にする事もないさ」
 実際、上層部の判断は正しい。エリックはこれからしようとしていた事を鑑みて、胸の中で呟く。それと同時にどうにか生き延びる手段を頭の中で講じようとするが、どう考えても状況は絶望的だった。
 相手は複数、エリックは単独。相手の銃口は全てこちらを捉えていて、エリックは銃に手をかけてすら居ない。この状況をどうにかしろというのは、一たす一を五にしろと云うのと大差ない。つまり、不可能という事だ。
この状況なら心置きなくナイン側につけるというのが、なんとも皮肉に思えた。
「それでこの場合、銃を捨てた方が良いのか?」
 軽口を叩く事で時間稼ぎを試みるが、打開策は出てきそうになかった。
「いや、どちらでも構わん。お前は抵抗して殺されたという事になるからな」
「……なるほど」
 死ぬ事を怖いと思う気持よりも、クリスに会えるかも知れないという望みを途中で断ち切られる無念さが先に立った。同時に、自分が殺されてナインもどうにかなれば、レアムのような街を増やさなくてすむという安堵もある。
「言い遺す事があれば、聞いてやるが?」
 観念した様子を装うエリックに、兵士が言葉をかけてくる。この兵士は人情的だな、とエリックは思った。……戦場では、余り長生きできないタイプかも知れない。
「……そうだな……最期の言葉か……」
 もっとも、これから死ぬ自分には関係無いが。
精一杯の時間稼ぎをしながら、頭の片隅で考える。
「……ちょっと待ってくれ、考える」
 最期の言葉を考えている風に見せながら、生き残る策を考えるエリック。だがしかし、いくら脳を回転させても良いアイデアは出てきそうになかった。
「…………ふぅ」
 時間稼ぎだと見切ったらしく、兵士が短いため息をついた。
「もう少し……」
 エリックの延命努力も、効果を成さず。問答無用で、兵士の引き金にかかった指に力がかけられ…………
「待って下さい」
 引き金が引き絞られる直前。思いがけずに、部屋に声が響いた。幸いな事に、兵士が驚いた拍子に引き金が引かれるような事は無かった。
「…………」
 部屋に居た誰もが、声の主を凝視していた。
 エリックも例に漏れず、戸口に立つ人物……つい先ほど別れたばかりアリシアを、驚きの表情と共に見つめていたのだった。


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