『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-120
「お前こそ、何故こんな事を? それと、あの無人機はなんだ?」
思えばエリックがこの事件に首を突っ込んだきっかけは、あの無人機が地下空間で見たものと同じものだったからだ。
「何故と言われても、ナビアとジュマリアに対しての攻撃行動がプログラムされているからというだけだよ。お前がどちらかの勢力だと答えたら、今頃こうして話はしていないだろうな」
つまりは、誰かがナインの開発中に細工をしたという事だろうか。誰がそんな事をと思うエリックだったが、今更判る筈もない事なので考えない事にした。
「無人機は元々、私の中に生産プログラムが入っていたものだ。レイヴァリーのデータを見る限りでは、何処かからの拾い物のようだがな」
(…………クリスか…?)
どうやら脱出後、クリスはあの遺跡をしっかり調べていたらしい。転んでもただでは起きないところが彼女らしいと、少しだけ切なくなる。
「なるほど。それで、私をどうする?」
ナインの言葉に、エリックは自分がナインに銃を向けている現状を思い出した。
「……聞くまでも無いだろう?」
元々、ナノマシンの制御部を破壊しに来たのだ。運良くバックアップを見つけた以上、見逃す手はないだろう。無人機の事も判った事だし、心置きなく撃てるというものだ。
エリックは再び、引き金にかけた指に力を込めた。と、そこでナインが手をかざしてエリックを制止する。
「まぁ待て、私に協力する気はないか? お前には国の恨みも軍命も無い筈だ」
「協力……だと?」
ナインの言っている意味がわからず、エリックは思わず聞き返す。
「そうだ。レイヴァリーや此処でのデータを参照する限り、お前はなかなか優秀な兵士のようだ。遣り合って余計なリスクは負いたくない。お前も同じだろう」
機械に褒められても嬉しくはないが、一応ナインはエリックの事を認めているようだ。
「……見逃せ、という事か?」
それでは協力というのとは少し違うんじゃないかと思いつつ、エリックは問う。
「いやいや、大量に電力がある場所……変電所まで私を運んで欲しいのだよ。さすがに電力を使いすぎてな」
変電所というのは、落ちた雷を使える電気に変える施設である。そういえば、アリシアがナノマシンは電力で増えるというような事を言っていたなと、エリックはぼんやりと思い出す。どうやらレアム中の電力を食っても足りなかったらしい。まぁ、あれだけ無人機や白い粉を生産すれば当然なのかもしれない。
「勿論お前にも見返りはある。私を運んだ後は何処へなりとも行けば良いし、欲しいものは調達してやろう。その腕も直してやるが。どうだ?」
薄笑いはそのままに、ナインは探るように首を傾げて見せる。その様子は、表情が出ないアリシアよりも余程人間らしい。
「……何を企んでいる?」