羊の皮を剥ぐ-3
「皆川さん、私急用ができて帰らなきゃなんないから、今日中に終わらせなきゃならない書類、やっといてもらえないかな?」
夕方、翔子が亜紀にそう言って書類を差し出した。
「えっ…あ、はい…分かりました。」
少し表情を曇らせたがすぐに笑顔で答えた。
18時になると、みんな帰って行った。金曜日の夕方だ。明日は仕事は休み。みんなさっさと帰って行く。事務所には誰もいなくなった。
一人、山ほどの書類を机に置き仕事を続ける亜紀。決して社員には見せない姿を見せ始める亜紀。
「ざけんなよ!あのクソギャル!こんなに仕事貯めてんじゃねーっつーのっ!」
机をバンと叩く。そして携帯を取り出し友達に電話をする。
「あ、私〜。実はね、私の代わりに良く怒られてるギャル先輩にさぁ、仕事押し付けられちゃって今日無理だわ。断るのも印象悪くなるし、まー、いつも怒られて貰ってる罪滅ぼしだと思ってがまんするよ。じゃ。」
そう言って電話を切った。
「男ってちょろいよね〜。ニコニコしてりゃチヤホヤしてくれるんだもん。ま、私が可愛いからなんだけどね?アハハ!」
大笑いする。
「でもこんなにヤッてらんないよねー。適当にやって帰ろうかな。どうせ私は怒られないし、怒られるのはあのクソギャルなんだから。」
適当に書類を書き始めた。
「お疲れ〜。」
そこに健太郎が帰ってきた。いつもの笑顔に戻る亜紀。
「あ、川田さん、お疲れさまですぅ。」
態度が一変する。
「ん?残業?珍しいね。」
「島田先輩に頼まれたんです。いつもお世話になってるんで頑張らないと。」
心にもない事を言う。
「ホントは、やってらんねーよクソギャル!って思ってんじゃないの〜?」
ドキッとした亜紀。
「お、思ってませんよ、そんな事…。」
「ハハハ」
笑って机に座り仕事を始めた健太郎だった。