野生の悪魔が現れたっB-15
「うん、いいよっ。フィールドワークの事があるし、私も訊こうと思ってたんだっ」
ツインテールを揺らした友美は、早速携帯を取り出して
「赤外線出来る?」
と訊くのだった。
修一は拍子抜けした。
言いなりのはずの友美を相手に何故か声を掛けることへ緊張を覚えていたのが、あっさり受け入れられて拍子抜けしたのだ。
「片桐君?」
「え、あ、ごめん……」
修一はいそいそと携帯を取り出すと、赤外線で遣り取りを済ませた。
「へへっ。片桐君のアドレスゲット〜」
「え?」
何故か嬉しそうな友美を前に、修一の胸は高鳴る。
「あの、さ……」
「ん?」
歯切れの悪い修一を、友美は目をぱちくりさせて見つめている。
その仕草に彼の脈は早くなっていく一方。
「昨日、なんで嫌がらなかったの?」
「……何を?」
「その……だ……抱き締めた、こと……」
辺りを気にしながら小声で伝えた修一に対し、友美は少し顔を赤らめる。
しかしニコリと笑って
「嫌じゃなかったから……」
と返すのだった。
「そう…………か……」
「じゃ、じゃあ……また明日」
友美は気恥ずかしさにそそくさと荷物を纏めにかかる。
そして準備の整った手提げ鞄を掴み
「メール、待ってるから……」
と、その場を離れていった。
修一のドキドキは止まらなかった。
友美の残り香に大きく息を吸い込んでしまうほど、彼は彼女に惹かれている。
修一はその感情を自覚していた。
急すぎる、恋。
彼は初めて催眠を掛けたことを後悔していた。
友美に対して、だけだが。
しかしながら、催眠を用いなければ友美の太腿に触れられるほど距離は縮まらなかったかもしれないし、彼女の気持ちも知らなかったかもしれない。
……そう。
友美はもう、半分告白したようなものなのだ。
気になっている……その心の状態を、本人に伝えているのだから。
しかし修一が気持ちを伝える事を躊躇っているのは、本当は、彼女にフられることではない。
フられたとき、命令を駆使して友美の全てを得ようとしてしまうかもしれない自分を恐れているのだった。
「………………」
修一は項垂れた。
催眠で恋仲になっても意味はない。
そんなことは虚しいだけだと、彼にも解っている。