『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-26
エピローグ・旅路
《変後暦四二三年十月十四日》
「マジか……?」
ナビア―ジュマリア間国境の平原。
二人は、ワーカーを降りて徒歩で国境まで逃げ延びていたのだ。
もともとジュマリア基地に近い場所だけに、追撃も大した事は無かった。
「うん。ペーチノーイルまで行って、高速線に乗れば…そうね、四日もすればルゥンサイトに着くよ。ルゥンサイトは来るもの拒まないしね。」
ワーカーを降た後。直ぐ最寄のジュマリア軍基地に行くものとばかり思っていたエリックに、国境に着いたクリスは予想だにしなかった事を言い出したのだ。
『これからさ。二人で逃げちゃおっか?一番豊かだっていう、ルゥンサイトあたりにでも。』
てっきり冗談と思っていたが、どうやら本気らしい。
ルゥンサイトというのは、北方にある大国の事で、ルヴィン教を国教としてその教皇が政治を取り仕切っている国だ。
その為に宗教国家という呼ばれ方もするが、異教徒も快く迎え、戦争難民なども全く拒まない。正に、来るもの拒まずといった感じの国だ。
「しかし…なんでまた……?」
エリックは、兼ねてからの疑問を口にする。
「ん……その方が色々吹っ切れると思うから……行こ?」
苦笑気味に言いながら、クリスはエリックの先を歩き出す。
既に断る選択肢は無さそうだ。まぁ、一度国を捨てた身だ。戦争のない所で暮らせるのならその方が良い。
「わかったわかった、行くよ。」
「やった!さすが、話がわかるわね!」
先行していたクリスが、笑顔を浮かべる。
クリスによると、ここから少し行けば村に出る筈だという。そこから長距離バスで二日程行けば、ペーチノーイルだという。
「もとから断らせるつもりも無かっただろ?」
苦笑し、エリックも歩き出す。
結局、聞けなかった。アルファ達と何があったのか。何故、あんなに取り乱していたのか。
クリスも別段、その事に触れようとしない。
しかし、それでも良いと思う。今、目の前にクリスが居る。それだけで、十分だ。
……それに、知ったらいけないような気がして、聞けなかった。
アリシアは、アルファに事実を知らせない事が彼女の罪だと言っていた。
ならば真実を知らない事は、罪だろうか。
そしてここに至るまでに、エリックはミーシャを犠牲にしている。
それはやはり、罪なのだろう。