『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-12
第六話・再会
《変後暦四二三年十月十四日》
「もう、探したんだからね?無駄な手間取らせないでよ……まぁ、隊員名簿に名前があったから、居るだろうとは思ってたけどね。」
「ク、クリス!?」
突然の声を受け、エリックは慌てて飛び起きる。
視線の先には、エリックの記憶そのままの姿で、茜色の夕日を受けて佇むクリスが居た。
亜麻色の髪、そして意思の強そうな瞳。きりっとした唇。
ただ着ている服はナビアのパイロットスーツだし、髪が肩までの長髪になっているが。
「久しぶりね…………元気してた?」
「な、なんで……!?」
パニくるエリックに、クリスは悪戯っぽく微笑む。
すでにエリックには状況が飲み込めていない。口をパクパクさせて驚きを表現するのみだ。
あまりに驚きが大きすぎて、感情が追いつかない。
「あはは♪驚いた?…って、めちゃ驚いてるわね……こっちがびっくりだわ……」
「……あ、当たり前だろ!何でお前ここに居るんだよ!?怪我はもう良いのか!?あれからどうしてたんだ!?どうやって来たんだ!?」
やっと我に返ったエリックが、勢い込んで訊ねる。
その様子がおかしいのか、クリスはくすくす笑っていた。
「怪我なんてとっくに完治して、戦場を転々としてたわ。とりあえずあんたにはお礼を言っとかなきゃ、って思ってね……助けてくれたのあんたでしょ?ありがと。」
その言葉に一瞬照れるエリックだったが、ふと気づく。
「ああ……って、その為だけに来た訳じゃないだろう?」
少し呆れるようにして、エリックは言う。
感動の再会の筈なのにどうもムードが出ないのは、この二人だからだろう。
クリスは少し驚いたような顔をして、愉快そうに笑い出す。
「あははははは!あんた、成長したわね。良い事だよ。」
何処となく嬉しそうに言うと、クリスはエリックの頭を撫でる。
「…馬鹿にしてないか……?まぁいい、それで…結局どうしたんだよ?」
憮然とするエリックにクリスはひとしきり笑った後、真面目な表情になる。
「昨日戦ったワーカーの調査よ。あれはジュマリアで開発されていた新型…M型ワーカーだと思うの。それがなんでこの基地にあったのかっていう調査ね。…それと……乗っていたパイロットの確認、よ………軍のコンピューターにハッキングしても、重要機密指定になってたし………。…あの動き……いや、なんでもない……」
何か思う所があるのか、クリスはそのまま黙り込んでしまう。
「クリス………?」
「…さ、食堂行きましょ!あたし配給券持ってないから、あんたのおごりね。」
エリックが声をかけようとした瞬間、クリスは元の調子に戻って明るく言う。
何かあるような気がした。
しかし先刻のアリシアとの事を思い出すと、突っ込んで聞く気にはなれなかった。
「そうだな……まぁ、最近夕食抜いてたから、お前一人位なら大丈夫だ。」
エリックは答えて、食堂へと歩き出す。
「やった!それじゃあ夕食しながら、知ってる事を教えて貰いましょうか!」
クリスは軽い足取りでエリックに続きながら言う。
それを聞いて、ふとエリックはある事に気がついた。
「なぁ……そうするともしかして……俺って…内通者って事になるのか?」
エリックのその言葉に、クリスは初めてそれに気付いたようだ。
「あ………そう…なっちゃうね……」
クリスは気まずそうに長くなった自分の髪をいじる。
やがて何か思いついたように、手を叩いた。
「じゃあ、あたしはあたしで調べるって事で良いじゃない。別にあんたから聞き出さなくても、自分一人であたしは大丈夫よ。あんたが上に突き出した所で、あたしは捕まらないし。」
それじゃあ立つ瀬がないとエリックは思ったが、実際クリスなら一人で何とでもできるだろう。それが、少し悔しい。
「ま……それならいいか……わざわざお前を突き出す気にもならないしな。頑張れよ。」
本当はクリスの為なら内通者になっても良かったのだが、やや意地になってしまう。
エリックは少し思案して、そう答えると、止まっていた足を再び動かした。
結局背任である事には変わりないのだが、実はどうでも良い事だ。
これがエリックに出来る精一杯であって、エリックを責められるものは居まい。
「それじゃあ決まりね。早く行きましょ!今日何も食べてないからお腹空いちゃって……」
「お前が俺のとこに来たのって……まさかその為か…?」