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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第二部』-10

第五話・α
《変後暦四二三年十月十四日》


 ミネルグには、パイロットは乗っていなかった。恐らく脱出したのだろう。
戦果は、大方の予想を大きく裏切るものとなった。
ジュマリアは甚大な被害を被り、撤退。対してナビアは一機の損害も出していない。
結局エリックの行動も、ただ手柄を焦っただけだと見られ、お咎めなし。
事態は良い方へ流れていると思われる。
そんな中エリックは、研究所のトレーラーへと向かっていた。
アルファに一言謝るためである。なにしろ、もう少しで彼の機体を沈める所だったのだ。
彼等の居るトレーラーは、基地の東口を出てすぐの場所にある。
……………。
エリックは東口を出た所で、アルファとアリシアがトレーラーを出て行くのを見た。
具合でも悪いのか、アリシアに支えられるようにして、アルファは基地の裏へと向かって行く。エリックに気付かぬまま彼等は基地の裏へと入って、エリックの視界から消えた。
「………?」
 好奇心にかられたのと用事があったのとで、エリックは彼等の後を追ってみた。
「……大丈夫ですか?」
 先ほど彼等が曲がって行ったところで、アリシアの声が聞こえた。
エリックは音がしないよう気をつけて壁に張り付くと、向こうの様子を伺う。
どうやらここを曲がった先に、二人は居るようだ。
こっそり覗き込むと、壁に手を着いて俯くアルファの背中を、アリシアが擦っている様だ。
「……ハァ……ハァ…………ゥ……!!」
 アルファは荒い息をつきながら、激しく胃の中のものをもどす。
アルファはひたすらにもどし続け、アリシアはそんな彼の背中を擦り続けた。
そんな事が暫く続いて。
ようやく収まったのか、アルファは吐くのをやめて、アリシアが差し出したボトルを受け取り、口を濯いで水を吐き捨てると、袖で口許を拭う。
「……モウ…大丈夫………酔ッタダケダシ……」
 そう言ってボトルを返すと、アルファは青い顔でアリシアに微笑んで見せた。
「嘘ですね。」
 無感情な声で言うと、アリシアはアルファを自分に向き直らせ、抱きしめた。
「…耐久テストの時にはありませんでした。酔いが原因では無いでしょう?」
 やはり無感情に語られるその言葉に、しかしアルファは、力を失ったように崩れる。
もはやアリシアにしがみついてやっと立っているような状態だ。
「………伝ワッテ…来ルンダ………」
 ポツリと、アルファが呟く。
「……コクピットヲ…ナックルデ潰ス時…銃デ打チ抜ク時…………」
 アルファは瞳から涙をぼろぼろ溢しながら、喉から言葉を振り絞る。
アリシアはただ黙って、そんなアルファの背中を撫でていた。
「恐怖…憎悪……死…………全部…全部…全部…全部…全部、全部!」
 アルファは突然アリシアにしがみつき、子供のように泣きじゃくる。
その構図は、さながらエリックの胸で泣いていたクリスである。
「アルファ……」
そんなアルファの背中をやさしく撫でながら、アリシアが呟く。表情は無い。
それに安心したかのように、アルファの体から力が抜ける。
「…アルファ…?」
 訝しげにアルファに声をかけるアリシアは、やはり無表情。
アルファは全く反応を見せない。見れば気を失っていた。
どうやら本格的にやばそうなので、エリックは思わず飛び出した。
「おい!大丈夫か!?」
「貴方は………とりあえず、医務室までお願いします。」
 全く驚きの表情も作らず、アリシアは迅速に指示をする。
それに従い、エリックはアルファを担いで基地内に向かう。
「ありがとうございます。出歯亀の件は、それで帳消しにしておきますので。」
 いきなり痛い所を突いてくるアリシアに、エリックは苦笑する他無かった。


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