幼なじみの法則C-3
「おかわり。持ってきた」
落ち着きを取り戻した健吾が、けれど少しだけよそよそしく、ノックをして部屋に入ってきた。
ドアなんていつも全開なんだから、わざわざノックする必要なんてないのに。やっぱり、律儀な人だなー。
部屋に甘い香りが漂い、健吾から受け取ったマグカップの中を覗きこむ。
中身は先ほどの真っ黒に、いちごシロップみたいなピンク色を足したようなやわらかい色。
『あれ?ココア?』
「あー、かなはココア派だと思って」
『え、なんでわかったの?』
カテキョをお願いするようになってから、健吾の前でココアなんて飲んだことないのに….
「ははっ!だっていっつも渋い顔して飲んでんじゃん、そりゃ気づくわ!」
「それに、俺もコーヒーよりココアの方が好きだから」
そう言って、健吾もココアをひとすすり。一瞬だけ眉毛がぴくっと動いて、「あち」と言いながらもう一口飲んでいた。
あたしも「あち」と言って、健吾から目を逸らした。
….ずるい。ホント、嘘つきなんだから。
健吾、甘いのそんなに得意じゃないじゃんか。出来たてのコーヒーもよろこんで口にするくらい、熱いの平気じゃんか。
それに前におばさんが、健吾のコーヒー消費量がひどいって嘆いてたの知ってるんだからね、あたし。
(あたしに合わせてくれたんだなぁぁ….)
知らない部分はおそらく多い。だけど、生真面目というか、礼儀正しいところや、こうやって気遣ってくれるやさしいところは、昔から変わっていない。
知らない部分を新しく知っても、変わってないところを再確認しても、やっぱりあたしは好きって思っちゃうんだ。ホント、ずるいよ健吾。
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