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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』-23

「…………」
 返事は無い。
「冗談だろ!?おい!クリス!くそ…返事をしてくれよ……!」
 必死に呼び掛けるエリック。
思わず自分に対する悪態がこぼれる。自分のせいだという自責の念が、エリックを襲う。
「………ぅ……」
 微かに、通信機からクリスの声が聞こえた。
「クリス!大丈夫か!?」
 安堵と不安がない交ぜになりながら、エリックはクリスに呼び掛ける。
「……ぇ…エル……?」
「違う、俺だ!エリックだ!…しっかりしてくれよ……」
 弱弱しいクリスの言葉に、エリックの中の不安が大きくなる。
「なんだ…あんた、なの………やっとエルに逢えたと…思ったのになぁ…」
 虚ろに響く言葉が、エリックの心を冷やす。
まずい状態だと、直感した。
「そんな事はどうでも良い!機体は動くか!?」
 クリスのそんな言葉を聞きたくなくなって、エリックは思わず叫ぶ。
「機体…?…ああ……駄目だわ…ごめん…先行ってて……あたしは多分…もう…」
 眠たそうに、クリスの声の調子が下がって行く。
「おい!冗談じゃないぞ!置いてなんて行けるか!大体独りでどうやって脱出するんだよ!お前が居ないとどうにもならないんだ!」
 不安に駆られて、エリックは怒鳴る。
このままではクリスが消えてしまいそうで、怖かった。
「もう少し…だから…大丈夫……………死んだら…エルに…逢えるのかなぁ……」
「それ以上言うな!!」
 聞くに堪えられなくなり、エリックはペール?にミネルグを担がせる。
正確には、肩を貸している形だ
「あと少しなんだろ!?俺が運んでやるから、もう少し頑張れ!」
「やめて……あの時…あたしも…死ぬべきだったのよ……エルが居なくなった時に……」
 殆ど、うわ言のように呟くクリス。
エリックは耳を塞ぎたい衝動に駆られたが、今はまず脱出する事が最優先だ。
「…死なせない……お前を死なせはしないからな!」
 強くクリスに向かって呼び掛けると、エリックはペール?を前進させた。
自分の責任だというのもあったが、別の感情も混ざっていた。
ワーカーを担いで居る為に歩みは遅いが、それでも確実に一歩ずつ前に進んで行く。
「駄目……置いてって……こんな状態で敵が出て来たら……」
「…うるさい!とにかく生きろ!何か考えるのは後回しだ!」
 尚も呟くクリスを一喝し、エリックはひたすらにペール?を進ませる。
静寂の降りたコクピットに、すすり泣く声が聞こえてくる。
「何で……?もう…親しい人が死ぬのは…嫌なのに…あんたに…死んで欲しく無いのに…何で……あんたも…死んじゃうかも知れないのよ…!?何で………!」
 泣きじゃくりながら、クリスは言葉を洩らす。
近しい者の死は、クリスにとって禁忌なのだろう。
喩え一緒に居た時間が少なくとも、クリスとエリックは親しくなりすぎた。
エリックはそんなクリスの心を感じ、ペール?を操作しながら彼女の言葉に耳を傾ける。
そして、自分の気持ちを整理しながら、ゆっくりと深呼吸する。
「……惚れた女を守れない位なら、死んだ方がマシだ。」
「……ッ!」
 自分の気持ちを素直に吐き出した。通信機越しでも、クリスが息を呑んだのが判った。
危険な状況下では恋の錯覚が起こり易いと言われるが、エリックは自分の感情はそんなものでは無いと、整理した中で結論を出していた。
そしてあまりにも望み薄な恋だ。それでも、抱いてしまった感情を否定する事は出来ない。
「って事で…今はとりあえず脱出する。それで良いな?」
「………うん……」
 何処か晴れ晴れとしながら言うエリックに、今度はクリスも素直に頷く。
           ズガァァアアアン!!!
 突然二機の前方のビルが砕け散ったのは、丁度その時だった。


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