『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』-21
また一体、クリスが敵機を撃破した。
そんな事を五分も繰り返しただろうか。
とりあえず回りにいる二足ロボットは排除したようだ。
ひっきりなしに現れていた二足ロボットが、ぱったりと姿を現さなくなった。
加えて辺りも見晴らしが良い為、不意打ちはまず無い。
「…………ふぅ……」
ミネルグにマシンガンのマガジンを装填させながら、クリスは呼吸を整える。
あれだけ活躍しても、まだ余力がありそうだ。
「……さすが、風神ともなると違うんだな……」
「!?」
カマをかけた。ミネルグの足が止まる。
通信機越しに、クリスの動揺が伝わってくる。
「……やっぱりな。」
「あ……」
小さく息を吐き、エリックは呟いた。そこで、クリスはエリックの言葉がカマかけだったと気付く。だがもう遅い。もはやしらを切れる状況では無い。
「あ、あたしは……」
震える声で、クリスは何か言おうとする。今まで、言う機会はあった。
それでも言わなかったというのは、騙して居たも同然だ。
だがそれでも、いつの間にか友の様になっていたエリックに、血塗られた殺人者を見るような目で見られるのが、怖かったのだろうか。
「別に責めたりはしない。戦争だし、カイル達が無事でないとも限らない…逆に、お前がそれだけの腕を持っているからこそ、俺は今生きてるんだからな。それに……」
努めて穏やかな口調で、エリックは言う。
「ジュマリアだろうが風神だろうが、お前がお前である事に変わりは無い。」
実際、敵味方だとか仲間の仇だとか、彼にはさした問題では無くなっていた。
彼はジュマリアの風神ではなく、一人の人間としてクリスを知ってしまったから。
「………うん………」
ぽつりと、通信機から聞こえたクリスの声。酷く穏やかで、微かに震える声。
…クリスとして見られたのも、嬉しくて涙を流したのも。エルが居なくなってから初めてだった。
「…もう…弱いくせにカッコ付けちゃって…」
照れ隠しに憎まれ口を叩き、クリスは止まっていたミネルグの足を再び動かす。
「…悪かったな。」
言われて照れたらしいエリックは、それっきり黙ってクリスの後に付いてくる。
「………でも……ありがと…」
そんなエリックに、クリスは通信機が聞き取れない程小さな声で言う。
「…ん?どうした?」
クリスが何か言ったのを感じたエリックが、聞き返す。
「なんでもない、早く行きましょ!のろのろしてると置いてくわよ!」
クリスは笑いながら言うと、ミネルグの速度を上げる
「ちょ、ちょっと待てって!」
ペール?は、そんなミネルグを慌てて追いかけるのであった。