「遠い隔たりと信じられない近さ」-43
『アイちゃん。
合格おめでとう。やっぱりアイちゃんはすごいや。
ぼくも、だいぶ動けるようになったよ。先生の話では、来週には退院できるんだって。
ぼくも、会えるのを楽しみにしてるよ』
「本当に…アキくんの字だ」
喜びにむせぶアイコ。彼女の中で、思わぬ感情が湧き上がった。
(会いたい…)
いつまた、手紙が途絶えるかわからない。そうなる前に、会っておきたいと。
アイコはすぐに返事を書いた。
『アキくん、明日の午後2時に〇〇病院で会わない?
今までのことも、色々話したいから。
それから、目印になるものも、持っててね』
返事を書き終えたアイコは、再び布団に潜り込んだ。今度はすぐに眠ってしまった。
「お母さん、ちょっと出かけてくるね!」
午後。昼食を終えたアイコは、職員室にいる片岡に言った。
すると片岡は、いつもと違うアイコを目ざとく見つけて、
「どうしんだい?」
ニヤニヤと笑い出した。
片岡の反応が、アイコには解らない。
「いつもと一緒だよ。変?」
「髪もきれいに結っちゃって。男の子とデートなの?」
冷やかしのつもりだった。が、アイコは、それをあっさりと肯定する。
「まあ、そんなもの。夕方までには戻るから」
思いがけない出来事に、片岡は呆然となった。アイコは、それを尻目に職員室を後にする。
(デート相手が10歳の男の子って知ったら、お母さんどんな顔するかしら?)
行く先へと歩きながら、アイコはクスクスと笑っていた。
約束の時間より少し前に、アイコは〇〇リハビリテーション病院に着いた。
建屋前の駐車場は、休日ということもあってクルマは停まっていなかった。
(これで、何処から来ても、すぐに分かる)
アイコの中には疑問が湧いていた。
わたしと晶くんの間には、15年の隔たりがある。此処で出会うとして、この隔たりはどうなるんだろう?
(飛び越えるのか?それとも…)
答えはない。が、もうすぐはっきりする。そして、この奇妙な関係も終わるのではないか。