「遠い隔たりと信じられない近さ」-42
その日の夕食時に、アイコの合格祝いが催された。
お祝いといってもささやかな物で、夕食に小さなケーキがひとつ付いただけ。
たが、アイコにすれば、この上ない喜びだった。
片岡の計らいで行ってもらったこと。弟や妹から受けた手作りのお祝い。
アイコにとって、忘れられない夜となった。
楽しい宴は、あっという間に終わった。
部屋に戻ったアイコは、宿題の記念品作製にとりかかった。
来週初めが期限だから、休み中に仕上げなければならない。
(早くしないと、休みがなくなっちゃう)
作業は深夜近くまで行われて、
「よし…後は、名前を入れれば終わりだ」
どうやら完成の目処がたったようだ。満足気な顔で、伸びを繰り返す。
「明日は、沙織ちゃんと翔太くんを手伝って…」
その時、頭の隅に追いやっていた記憶が浮かんできた。
「…そうだ。今日でアキくんと、終わりにするんだった」
受験からの解放と、その後の忙しさで忘れていたのだ。
(なんでわたし忘れちゃったの?たった10日なのに…)
信じられなかった。手紙が途絶えても、晶のことは、いつも頭の中から消えることは無いと思ってたのに。
「そんなはず…」
アイコは認めたくない。現実を打ち消そうと、手紙を書きだした。
『アキくん、お久しぶり。
アキくんからお手紙来なくなってずいぶん経つけど、リハビリ頑張ってますか?
わたしは今日、高校の合格発表で、無事合格しました。
お母さんに先生、子供逹が喜んでくれたよ。
あと少しで卒業です。そしたら、会いに行くから』
「これでよし…と」
書き終えると、さっさと布団に潜り込んだ。感傷に身を置きたくなかった。
しかし、忘れようとすればするほど記憶は鮮明に甦る。
いつしかアイコは、返事を強く望んでいた。
布団に入って1時間ほど経った頃、アイコは再び起き出して机の前に立った。
本を開き、手紙を入れた図書カード入れの中を確かめると、指先に紙の感触が。
(まだ届いてないのか…)
落胆した表情で紙を引き出した。するとそれは、アイコの書いた手紙ではなかった。
「これ…アキくんからの」
慌てて紙を広げてみると、そこには、まぎれもない晶の字があった。