「遠い隔たりと信じられない近さ」-41
「どこ…わたしの番号」
合格表の前で、番号をひとつずつ目で追った。
そして、
「あった…」
確かに見つけたのだ。自分の番号を。
「あった…あった…」
不安顔で何やら呟きながら、おぼつかない足どり。見守っていた片岡は、苦い顔になった。
「お母さん…」
片岡は、アイコを抱きしめる。
「もういいよ。アイコは精一杯やったんだから、私立に行ったって…」
なんとか立ち直ってもらおうと、慰めの言葉を並べた。
すると、アイコは片岡の腕をふりほどいて、
「違うの。あったの、番号が」
ようやく、笑顔になった。
「あったって?合格したの」
「うん。合格した」
次の瞬間、再び片岡の腕がアイコを包んだ。
「お、お母さん…苦しい」
「良かった!よく頑張ったね!」
力いっぱいの愛情を受け、アイコは今までにない、充足感を覚えた。
「お母さん、先生に報告してくる」
「いってきなさい。先生も喜んで下さるわ」
安西は少し離れた場所で、生徒逹の合否を確認していた。
「先生!」
「おお!アイコ、どうだった?」
アイコは満面の笑みにVサインで答える。
「そうか、おめでとう!」
その途端、顔をくしゃくしゃにした安西がアイコの手を掴み、2度3度と振り回した。
いかにも、直情家らしい喜びようだ。
「よくやったな…本当に」
安西の目に光るものが見えた。
(まったく…子供みたい)
気持ちに正直なのは構わないけど、時と場所を選ばないのはちょっと。
「先生、泣いちゃだめですよ。まだ、全員の合否分かってないんでしょう」
「そ、そうだな。こんなとこ見られちゃまずいな」
ハンカチで目頭を押さえて表情を引き締めてるのが、滑稽にさえ見える。
「じゃあ先生、わたしここで」
片岡のもとに戻ろうとするアイコの背中に、安西が声をかけた。
「明日、明後日はゆっくり休めよ!来週は卒業式だから」
アイコは振り返る。
「そんな暇ありません!記念品まだなんだから」
「そりゃ仕方ない。頑張れよ!」
安西は笑っていた。
(まったく…お気楽なんだから)
アイコもまた、笑った。