投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「遠い隔たりと信じられない近さ」
【ファンタジー 恋愛小説】

「遠い隔たりと信じられない近さ」の最初へ 「遠い隔たりと信じられない近さ」 38 「遠い隔たりと信じられない近さ」 40 「遠い隔たりと信じられない近さ」の最後へ

「遠い隔たりと信じられない近さ」-39

 夕方。受験を終えたアイコが、施設に帰ってきた。

「ただいま〜」
「あっ!大っきい姉ちゃん」

 庭で遊んでいた子供逹が、最初に出迎えた。

「しけん、大変だった?」

 そう訊ねたのは、1番下の妹だ。アイコはしゃがみ込んで、視線を合わせる。

「大変だった。でも、頑張ったよ」

 解放された喜びで自然と笑顔が出た。

「そろそろ寒いから、お家に入ろう」

 そう言うと、子供逹と一緒に玄関をくぐった。

「ちゃんと手洗い、うがいするんだよ!」

 子供逹が洗面所へと消えた後、アイコは職員室の扉を開けた。

「ただいま戻りました」

 中には、片岡他、職員全員が待っていた。

「おかえりなさい!どうだった?」

 片岡が開口一番そう言うと、周りの職員から、クスクスと笑いが起こった。

「園長ったら、心配で堪らなかったみたいよ」
「そーそー!此処にいても、うろうろして落ち着かなくてさ」
「計算は間違うし、味付け失敗しちゃうし」

 次々と出た暴露話に、片岡の頬が赤くなる。

「そんな…目ざとく見ないでよ」

 その途端、笑い声が一斉に広かった。当然、アイコも輪の中だ。
 意外ともいえるおちゃめな一面に、こみ上げる笑いを堪えきれなかった。

「アイコ、あんたまで笑うの?」
「アハハッ!…ごめんなさい。でも、試験は精一杯やったよ」
「そう。そりゃ良かった…」

 アイコには、安堵した片岡の表情が印象的だった。



 夜。子供逹が寝静まった頃、アイコは手紙を書いた。


『アキちゃん。
 リハビリ、頑張ってますか?わたしは今日、高校受験でした。
 自分なりには頑張ったつもり。結果は10日後だから、今は待つだけです。
 結果がわかったら、すぐに知らせるね。
 アキちゃん。返事待ってます』


 書いたメモ用紙を、図書カード入れに収める顔が辛そうだ。

「これでだめなら…次で諦めよう」

 アイコの中で、今までの出来事がフラッシュバックする。

 平積みになった本の中にあった、小さな紙片に綴られた一文をきっかけに、友だちになったこと。
 互いの今を話し、夢である未来を語り合い、過去を晒して心を寄せ合った。
 アイコにとっては、片岡や安西以上に、心の支えとなっていた。

 その関係に、ピリオドを打つ覚悟をしたのだ。

「何か…言ってきてよ…」

 アイコは、その日を境に手紙を出さなくなった。






「遠い隔たりと信じられない近さ」の最初へ 「遠い隔たりと信じられない近さ」 38 「遠い隔たりと信じられない近さ」 40 「遠い隔たりと信じられない近さ」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前