「遠い隔たりと信じられない近さ」-38
「今日も来てない…」
今夜もアイコはため息を吐いた。図書館カード入れには、何も入っていない。
晶からの手紙が来なくなって半月。とうとう、受験前夜を迎えてしまった。
その間、アイコは手紙を書き続けていた。
翌朝には手紙はなくなってるから、届いてるはずなんだが、晶の方からの返事はまったく来なかった。
(もう、何か言ってきてよ…)
布団の中で、ひとり悶々とするアイコ。いくら考えても、晶が返事を書かなくなった理由が解らない。
(確かに、あの前はおかしくなってたけど、こんなになるはずないし…)
思考を巡らせながら、アイコは初めて後悔した。
(このまま終わるなんて嫌だ。せめて、ちゃんとお別れ言ってじゃないと)
明日はこれまでの集大成を披露する日というのに、アイコはその日、眠れぬ夜を過ごしていた。
「え〜と。受験票と筆記用具に参考書と…」
翌朝、アイコは慌ただしく受験準備をしていた。
「それにハンカチと…」
そこに、片岡が飛び込んできた。
「アイコ、お弁当出来たわよ!」
「ありがとう!お母さん」
すべてのチェックを終えたアイコは、玄関に向かった。
そこには、片岡と職員、沙織と翔太を初めとする子供逹が集まり、様々な激励の言葉を一斉に発した。
「わかった!わかった!とにかく、頑張ってくるから」
背中にたくさんの声援を受けて施設を後にする。
身が縮むような朝の冷気も、今のアイコには届かないようだ。
(いってきます…)
たくさんの優しさで胸いっぱいになりながら、バス停へと向かった。
「こっちだ!こっち」
アイコが試験会場である高校に着くと、正門前には引率役の安西が待っていた。
「おはようございます!」
この高校は、国立大学合格率が県下ナンバー1という進学校で、アイコの通う学校からは25名が受験する。
試験開始40分前には、すべての生徒が揃っていた。
「今までの成果を発揮してくれ!いつも通りにやれば、大丈夫だ」
安西は、正門前で生徒1人々に声をかけて送りだす。
アイコの番がきた。
「いつも通りにな」
「はい…」
ひと言を残して、アイコは正門の向こうに歩きだした。