「遠い隔たりと信じられない近さ」-37
『診療所に移っても、お父さんが来るのは年に2回。お姉ちゃんとは会ってもいない』
『それは、何か事情が…』
『お父さんに言われたんだ。“おまえのおかげで、家族が迷惑してる”って』
『そんな!』
『ぼくには、誰も味方がいなかったんだ。お母さん以外は。
その時なんだ。アイちゃんと出逢ったのは』
『アキくん…』
『初めて友だちが出来たんだ。本当に嬉しかった。
ぼくが退院できるのは、アイちゃんのおかげなんだ』
『そんなことないよ。わたしだって、悩んでた時、アキくんと出逢えて感謝してる』
『アイちゃん、ひとつ訊いていい?』
『なあに?』
『特殊な環境に住んでるってなに?最初の頃、言ってたよね。
聞いちゃいけないなって思ったから、あれ以上聞けなかったんだ』
『ごめんなさい。言わなきゃと思ってたんだけど、言いそびれちゃって。
わたしの住んでる家は児童養護施設といって、親や育ててくれる身内のいない子供が入る施設なの』
『じゃあ…アイちゃんは親がいないの?』
『いないわ。わたしの母親は、わたしを産んだ後亡くなったんだって』
『じゃあ、お母さんっていうのは?』
『施設の園長さん。生まれてからずっと一緒だから、そう呼んでるの。
この間、言ってた弟や妹も施設の子供逹よ』
『そうだったのか。教えてくれてありがとう』
『リハビリが終わったら、みんな紹介するから』
『わかった。必ず良くなって、会いにいくから』
『うん、待ってる』
『アイちゃんも受験頑張ってね。今までありがとう』
最後の手紙を見たアイコは、なんだか嫌な感じになった。
(なに?この、今までありがとうって)
その予感は的中した。翌日から晶の手紙が、来なくなってしまったのだ。