「遠い隔たりと信じられない近さ」-32
「こんなところに、病院があるの?」
想像していたのより厳しい寒さに、アイコはだんだん、気が滅入ってきた。
「やばい…手足がしびれてきた」
命の危険さえ感じ初めた時、それは突然現れた。
3階建ての横長い白いビル。雰囲気から病院を思わせた。
「此処しかないよね」
アイコは、そろそろとビルに近づいた。
(でも、アキくんの話じゃ、診療所は平屋だって…)
半信半疑のまま、玄関口にたどり着いた。
「やっぱり!」
玄関口に掲げられた看板を見たアイコは、しばらく動けなかった。
看板には、“町立〇〇病院”と書かれていたのだ。
「じゃあ、じゃあアキくんは?診療所は」
アイコは慌ててリュックから本を出して、手紙を確かめる。
「そんな…」
手紙は、晶からの返事だった。
『アイちゃん約束だよ。弟や妹にも会わせてね』
アイコは玄関をくぐった。正面から左手に受付があり、右手は待合室になっている。
「あの、すいません」
先ずは確認だと、受付の前に立った。
ほどなくして、事務服を着た女性が対応にきた。
「なんでしょうか?」
「此処は、〇〇診療所じゃなかったんですか?」
アイコがそう訊いた途端、女性は怪訝な表情になった。
「それ、10年くらい前ですよ」
「ええっ!10年ですか」
「はい。此処は以前、そう呼ばれてましたが、市町村合併の折りに建て替って町立病院になったんです」
晶のいる診療所が、すでに無くなって10年の歳月が経っている。
ある程度予測はしていたアイコだが、現実になった今も、まだ信じられない。
(ひょっとしたら、わざとじゃ…)
もし、晶が病院の名称を古く言っていれば、成り立つはずだ。
アイコは再び女性に訊いた。
「あの、此処に晶くんていう、10歳の男の子が入院してるはずなんですけど」
「名字は分かります?」
「い、いえ…」
アイコがそう答えると、女性はさらに、疑いの目を向けた。
「その晶くんとは、どういった関係です?」
「あの…と、友だちです」
すると、女性は冷たい表情で言った。