「遠い隔たりと信じられない近さ」-31
翌日の日曜日。アイコは朝早くに出かけた。
目的は晶のいる〇〇診療所を探すこと。
場所は昨夜、職員室のパソコンで調べた。此処から、2つ向こうの〇〇県にあった。
(お母さん、ごめんね)
片岡や職員逹には、調べもののために市立図書館に行くと嘘をついた。
しかし、嘘をついてでも真実を知りたかった。
アイコは、最寄りのバス停に向かった。バスは市立図書館を通りすぎて、〇〇県へ向かう列車が発車する駅が終点だ。
(でも不思議だ…)
背中のリュックから、本を取り出した。中には今日も、晶からの手紙が入っていた。
『〇〇病院って、アイちゃん家からも近いの?だったら、病院だけじゃなくて、何度でも会えるね』
こうしてる間も、手紙は通じている。晶という少年は、存在しているのだ。
アイコは、リュックからメモ用紙と鉛筆を取り出して、返事を書いた。
『そうだね。もう少しがまんすれば、一緒に遊べるよ。
わたしの弟や妹も紹介してあげる』
アイコは、返事を本の中にしまった。
ちょうど時を同じくして、向こうからバスがやって来た。
日曜日の早朝だから、誰も乗っていなかった。アイコは、1人掛けの椅子に腰かける。
バスは、クラクションをひとつ鳴らして発車した。
いよいよ、探求の旅が幕を開けた。
〇〇駅を発車した列車は、すでに1時間半経っていた。
車窓から見える景観は、ビルなどの大きな建物は見当たらず、代わりに連なる山々の自然が占拠していた。
アイコは列車の中で、手作り弁当を広げていた。
朝食を準備中だった片岡に、無理言ってやらせてもらったのだ。
「後、30分で〇〇駅に到着するから、そこから〇〇行きのバス停でバスに乗ると…」
旅程を記入したメモ用紙に目を通す。〇〇というバス停で降りた後は、徒歩で15分。
「これだけの距離を毎週、本を持って通うなんて…アキくんのお母さんってすごいわ」
アイコは改めて感心した。
道は緩やかな傾斜をなしていた。その中をアイコは歩いている。
「嘘つき…徒歩で15分なんて…無理よ」
日射しはあるのだが吐く息は白い。山間部のためか、平地よりも気温も低く雪もかなり積もっていた。