「遠い隔たりと信じられない近さ」-27
『わたしね、先生のことが好きみたい』
『やっと言った』
『…本当は、送ってもらってる時もドキドキしてるの』
『先生に、そう言えばいいよ』
『でも、先生…他に好きな人いるみたい』
『えっ?』
『それに、わたしには受験があるから』
アイコは、想いを胸にしまった。
『わたしも言ったんだから、アキくんも教えてよ』
『えっ、いないよ』
『わたしのことが分かるくらいだから、いるでしょ?教えてよ』
『本当にいないよ』
『看護婦の矢野さんは?手紙によく出てくるけど』
『矢野さんは仲良しだけど、なんとも思ってないよ』
『そうなの?』
『うん。でも、また新しい夢ができたよ。病気を治して学校に行けるようになったら、好きな子をつくるよ』
『頑張ってね』
今まで、心の中に封じ込めていた様々な気持ち。
それを聞いてくれる、意見をくれる友だちと出逢ったことは、2人の感情に豊かさをもたらした。
それは、晶にとってもアイコにとっても、良い結果を生んでいた。
そんなある日。
「こんにちは!」
晶のもとに、矢野がやって来た。
「晶くん。明日、お母さん来るのよね?」
「うん、そのはずだけど」
「その時、先生から大事なお話しがあるから、一緒に聞いてくれる?」
今まで、治療に関する見解は、母親だけに知らせていた。
なのに今回に限っては、晶にも聞かせるという。
晶の中に、不安が一気に広がった。
「それって、悪い話なの?」
「わたしからは、教えられないのよ」
「そんなこと言わずに、お願い」
すがるような眼に、矢野は躊躇いを隠さない。
しばらく考えた後、「じゃあ、ヒントだけね」と断ってから話し出した。
「良いお話しよ。晶くんにとって」
矢野は、それだけ言って病室を出ていってしまった。
「良いお話し…?」
残された晶は、1人考えを巡らせるが、結局分からなかった。