「遠い隔たりと信じられない近さ」-25
「その人って、先生の同級生ですか?」
輝く目が、続きを急かす。
「おまえと同じさ。たまたま、それこそ偶然に知り合えたんだ」
「それから先は、進学高なら、大学にも行ったんですよね?」
アイコはさらに先を知りたくなった。自らの夢を重ね合わせることで、勇気を与えてくれるものに思えた。
しかし、その話題になった途端、安西の声が急に小さくなった。
「実は分からないんだ」
「えっ?それって…」
「高校の合格発表の日をさかいに、連絡は途絶えてしまった」
トーンダウンと共に、重い空気が部屋を包む。アイコは何も言えなくなった。
その女の子は、安西にとって特別な存在だったのだろう。
(先生がこんなに想ってるなんて…)
アイコの胸の中が、きゅっとなった。
沈黙をかき消したのは安西だった。
「…それで、おまえに教えてた勉強方法な。実は彼女がやっていた方法なんだ」
「それでわたしに?」
「ああ、おまえがオレに“夢”を語った時、オレの頭に彼女のことがすぐに浮かんだ。
だから、そのまま使えると考えてしまったんだ」
初めて聞かされた事実に、アイコは胸が熱くなった。
「やっぱり、わたしバカです」
涙が溢れた。今度は嬉しくて。
「な、なんでまた泣くんだよ!」
ただ、安西を焦らせることに違いはなかった。
「オレ、何かまずいこと言ったか!?」
「わたし…先生がそんなこと考えてるなんて、思いもしなくて」
「お、おまえは気にしすぎなんだって」
そう答えて、ふと視線を窓の方へやった。前回同様、外は真っ暗だった。
安西が席を立った。
「今日はここまでにしよう。必要なら明日、また聞くから」
そしてこれも前回同様、アイコをクルマで送った。
「話をして、何だかすっきりしました」
走り出したクルマの中で、アイコが言った。
「そりゃ良かった」
安西が小さく相槌を打った。
「先生や友だちの話を聞いて、自分は甘いなあって…」
「それは違う」
今度はきっぱりと否定する。
「人間なんて支えてもらわなきゃ生きていけないんだ。たまたま、今回は支えられる側だったってだけさ」
安西は、なおも続ける。