「遠い隔たりと信じられない近さ」-24
「なんだよ、そんなことかよ」
もっと深刻な問題と思っていたから、つい、本音が漏れてしまった。
しかし、アイコは予想外の反応に戸惑ってしまう。
「そんなことって…」
「ああ、すまない」
安西は、前出の言葉を打ち消した。
「この間も言ったけど、気にするなって。あの日から半月経つけど、おまえは自分でちゃんとやってるじゃないか」
「そんなこと…」
「あるさ。まだ返してないけど先日の模試。すべての教科でアップしてたんだ。
だからアイコは、1人で集中してやるのが合ってるんだよ」
「それ…違います」
安西の優しさをアイコは受け入れない。
「あ、あの日から1人ではやってるけど…やり方は、先生に教わったままなんです。
えらそうなこと言って、わたし、自分じゃ出来ないんです」
自虐的ともとれる胸中に触れた安西は、葛藤を招く原因となった自分が恥かしくなった。
そして、アイコの苦しみを取り除かねばと思った。
「そんなに自分を責めるなって」
「友だちに言われたんです。怒られるより、怒る方がずっと苦しいはずだって。
それなのにわたし、自分のことばかりで…」
「そうじゃないよ。オレが相手をちゃんと見てれば、そもそも問題は起きなかったんだ」
安西はそう言うと、表情を緩めた。
「ところで、今回の件でアドバイスしてくれた友だちって?うちのクラスの奴か」
両ひじを机に置いた前のめりの格好。安西の聞く姿勢にアイコはたじろぐ。
「いえ…うちのクラスというより、学校の子じゃありません」
「同じ施設の子か?」
「それも違います…その、たまたま、まったくの偶然で知り合ったんです」
「まったくの偶然…」
アイコの発言に安西は、何故か遠くを見る目になった。
「まったく同じだ…」
「えっ?」
繋がらない話題に、アイコは戸惑う。安西は、さらに柔らかい表情になった。
「知り合いに、おまえと同じ境遇の女の子がいたんだ」
「わたしと同じ境遇?」
「ああ…児童養護施設出身で、かなりの進学高を受験したんだ」
突然、聞かされた昔話。アイコは強い興味を惹かれた。
「そ、その人、どうなったんです?」
「もちろん、合格したさ」
「本当に!」
結果に、奇声にも似た喜びの声。これもまた、安西が初めて見たアイコだった。